第七話 イジリとイジメは紙一重
実際イジメって、イジリの延長だと思ってます。
できれば二度と会わないと決めていたやつに会った時、人というのは怪訝な顔になるのだろうか。
俺が美空に遭遇した時、俺は眉間の皺が顔に寄っているのがわかった。
と、ここで美空が喋る。
「ちょっとさー! 勝樹ー! なーんで私に会った途端にそんな顔なってんのよ? 私に会うの嫌なの!?」
キツい口調で俺の顔の皺について言っているのだろう。
正直嫌いなやつに答える義理は全くない。
だが、俺は礼儀として答えた。
「……嫌じゃねーけど……。ただ、ムカつくだけだ。」
正直嘘と本音が入り混じった答えにはなった。
俺なりに美空に気を遣っただけなのだが。
「ムカつくって何よ! 勝樹さあ!! 一緒じゃない!! それ!!」
俺に面と向かって嫌い、とか、ムカつくとかって言われたらムキになるやつだ。
美空のような人間というのは、こういう一対一ならこうなるのだが、集団になると人によって集るタイプなのだから尚更タチが悪い。
「……まったく、誰のせいで俺がこうなってんだか。……俺がお前に対して考えてることなんて露知らずだもんな……? 普通わかるだろ、まともなやつなら。……俺が美空を嫌ってる理由がよぉ。」
「は? 何よそれ。私がアンタになんかした?? 言いがかりも甚だしいわ。」
自覚なしか……ハッキリいってぶん殴りたかった。
「どんだけコッチが円ハゲ作ったと思ってんだ。覚えてねえって言い訳すんじゃねえよ、ボケが。」
「知らないわよアンタの事情なんて!! 会って早々そんな顔されると気分悪いんだけど!!」
美空のあまりにもクソな開き直りにはため息が出る。
許す気が起きない。
「気分が悪いのはこっちだっつの……どの口が言ってんだ、ふざけんじゃねえ。……で? 美空は何しにここまで来たんだよ。どうせ大した用じゃねえだろ。」
「……ハア……アンタのそこを直せって何回言ったと思ってんのよ……まあいいわ。教えるわ。……部活の買い出しよ。練習試合のね。」
美空は元々バドミントン部で全道大会にも出場しているほどで、クラスで帰宅部だった俺の立場が悪くなるのも当然だ。
部活、ということは今もバドミントンをやっているのだろうか。
「ふーん……。あっそ。」
別段と興味はなかった俺は素っ気ない態度を取った。
「何よ、その反応!! で、そういうアンタはどーなのよ? 帰宅部なんでしょ、どーせ! 学校でぼっちなアンタが行くところなんて大体察しついてるけど!!」
本当に面倒くさい女だなと思う。
まあ、こんなやつに俺のプライベートを教える理由はないに等しいのだが。
「バイト帰りだ。俺は。まあ、どこで働いてっかは、教えねーけど。」
真実を混ぜた嘘を、俺はまたついた。
第一幼馴染とはいえど、コイツは俺のイジメの主犯格なのだ。
本当のことを全て教えるわけがないだろう。
「へー……アンタでもバイト採ってもらえるのねー……。なんもできないアンタがさー……。」
揶揄っているのか?? 本当に腹立たしい。
マジでぶん殴りたいくらい、はらわたが煮え繰り返ってくる。
「舐めてんのかゴラ。」
腹立たしい俺は口調が荒々しくなっていた。
「まあ、いいわ。頑張んなさいよ、アンタも。」
皮肉なのかなんなのか、美空はそう言い残して俺のバイト先に入っていった。
「……ホントマジでなんなんだよ、アイツは……。そういうところが嫌いなんだよ……。あのクズ野郎が……。」
俺はこう吐き捨てて自宅へと帰っていった。
「……昔はよくアイツと一緒にいたもんだけどな。」
俺は本当にガキの頃の思い出に、物思いに耽っていた。
成長していくにつれて、美空がああいうやつだと知ったからが故に俺は美空とは距離を置いていた。
ハッキリいって、俺に対する「イジメ」を、アイツは「イジリ」と捉えていたようだった。
昔はよく遊んだものだが、どうしたものか、と思っていた。
「……まあ、いっか。練習するか。」
そう思い、俺は格闘ゲームを起動させた。
一方美空は。
(ハア……勝樹、ホント何よあの言い草……。ふざけんなって言いたいのはこっちだっつの! もう!!)
そう考えて美空はウィダーゼリーやら、清涼飲料水やらをカゴに入れていった。
(………昔の「約束」……アイツ覚えてんのかな……? 勝樹をイジってたの……私が好きだからだったのに……。それなのに、あんな面向かってムカつくって言われたら腹立つのも当然でしょ!! やんなっちゃうわー、試合前だってのに……。)
ため息をついた美空は、会計を済ませて帰宅していったのだった。
素直じゃねー奴ら。