第六話 和吹夏菜が人を避ける理由(ワケ)
今回は、夏菜の過去にちょこっと触れます。
クラスの演劇の後で何があったのかも多少聞けるかと思います。
格闘ゲームの練習から一時間が経過し、俺と和吹は一度休憩することにした。
お互いに清涼飲料水を買い、口に含んだ。
「……なあ、和吹……。一個さ……聞きてえことがあんだけど……いいか?」
「え………?? きゅ、急にどうしたの……??」
和吹は俺から話題を切り出されることに驚いていたのか、身構えたような感じだった。
「……去年の文化祭が終わった後さ……何があったんだ……? お前さ……急にハブられたよな。アレからさ……。」
触れられたくなさそうな顔をした和吹。
整った顔がどこか強張っていた。
和吹は黙ってしまった。
「うー………ん。なんつーんだろな……そのー……別に誰かにバラすってワケじゃねーよ。俺もお前と似たようなもんだしな。差し障りがなかったらさ……俺に教えてくれねえか?? お前が元々こういう奴じゃないってこと……知ってんの俺だけだしな……。この学校でさ……?」
「………言いたくない………。」
和吹はかなり弱々しい声で拒否した。
声も手も心なしか震えており、今にも泣きそうな顔だった。
こういう時は自虐から切り出す方がいいのか……ただ、俺も俺で、イジメを喰らった時のことをネタにするというのはなかなか勇気のいるものだ。
クラスにはイジメ被害の全容は話していないが、円形脱毛症になったりと、色々精神的に大変だったのも事実。
どうすればいいのか……俺も悩んでいた。
「……まあ、言いたくはねえよな……。なんつーのかな……俺も言いたくはねえしな……去年のクラスのことは……。気持ちはわかるわ。でもよ……俺らさ、共通の趣味持ってるっていう点考えたらさ……俺には話せねえか……? ……別に他のやつに話さなきゃいいだけだべ?? 俺がさ……?」
「………怖い………」
理解者になろうとしている俺と、頑なに話すことを拒否する和吹。
側から見たら俺は最低な男に映る。
和吹の息遣いが徐々に荒くなっているのがわかった。
「……怖い、かあ……。そりゃあ……こえーよな……。信じてたやつに裏切られたって気持ちは……。俺と違ってお前は女子だからな……。余計こえーよな……。あの見下すような……汚ねえ『目』が……。」
この言葉を聞いた和吹の声がますます震えて来た。
「……やめて………思い……出させないで…………」
……俺も歯軋りをした。
俺だってこんなことを聞きたくはない。
ただ……今のまま林間学校を迎えてしまうと、和吹とクラスの間で溝が出来てしまうのではないか、という心配があった。
誰か一人でも、俺でもいいから何か和吹がクラスと距離を詰めるキッカケになってくれれば俺はそれでよかったのだが……。
「わかるよ……俺だって中学の時は……思い出したくねえんだ……。実際昼休みとかさ……俺、図書室に行って本借りてたりとかしてたしな……。その時にお前のクラスを通るからお前のことはよく見かけてたぞ……?」
自分の過去を少しだけ話し、ちょっとでも心を開こうとした。
大体距離を置いているワケは察しがついていたのだが。
「……ごめん……帰るね……沢城くん……。」
和吹の目には涙が映っている。
相当なトラウマなのは間違いがなかった。
「……そっか……。でもよ……お前しか知らねえ事実もあるだろ……?正直側から見ただけじゃわかんねーからさ……。……話したくなったらでいいよ。だから俺にだけは……話しておけよ……? 他の奴ら、アイツらとどこか近いからさ、お前と似たもん持ってる俺の方が話しやすいだろ?」
和吹は無言で頷いた。
そして、一言ポツッと呟いた。
「……うん……ありがと…………。」
そうして、和吹は立ち去った。
俺は申し訳ないことをしたな、と思いながら、何故あんなことになったのかを考察していた。
(和吹は……人気があったんだろうっていうのは事実だけど……表向きだったってだけかもしれねえな……。正直ウチの中学は……完璧主義的なところがあって……演劇の主役でポカしたやつがイジメを喰らったってのも……理由としては納得が行くんだよな……。イジメなんて……理屈があれば……どんなクソみてえな理由でも成立しちまうもんだからな……。しかもああいうイジメってなかなか理解してもらえねえし……。)
そして、こんなことを考えた。
(…………俺みてえに……今みてえに自然と人が寄っちまうケースもあるし……アイツの友人の誘いを受ける側がオドオドしてたら誘う側もやりづれえだろうし……。コミュニケーションが出来ないやつってワケじゃないのは俺が一番知ってるから……。もしかしたら負の影響が強すぎてそういうのを思い出せないのかもしれないし……怖い……っていうのもまあ納得はいくな……。あんな経験……本音は二度としたくねえもんな……。)
考え事をしながら店を立ち去った俺。
和吹に対してデリカシーがなかったな、と思いつつ、帰路についていると、嫌な顔に遭ってしまった。
「あれ〜? 勝樹、何やってんのかな〜〜? こんなところでさ〜〜??」
陽気な声で俺に喋りかけて来た人物が……まさか、今の俺を創った元凶だとは……
「………美空………お前こそなんでわざわざ駅前まで来てんだよ……。」
俺が顔を顰めた。
もう会いたくないと思っていた、そのちょっと小柄で、巻き髪が特徴の女子。
そう、その声の主とは………俺の幼馴染であり、いじめの主犯格でもある……「井浦美空」だった。
美空の予定としては……バカ性格悪いやつに仕上げたいと思ってますwww