第五話 桐ヶ谷美智留
新章開幕。
メインヒロイン3人目が登場します。
でもハーレムにする予定は全くございません。純正ヒロインの夏菜、サブヒロインの沙里奈、そして今回はタイトルにある通りの、相談役系ヒロインです。
どんな展開を迎えるのかはお楽しみに。
俺がゲームセンターで偶然和吹と会った翌日。
俺はスーパーマーケットにいた。
この日は土曜日。
俺は手稲駅と同設しているスーパーマーケットの品出し業務をしていた。
いわゆるアルバイトだ。
高校まで遠出のため、ぶっちゃけた話、土日祝日でないと働けない。
実際、ここのスーパーは、開いてる時間が夜8時まで。
学校の用事なんかで遅くなったりすれば、出勤ができない。
高校に入学したてで多忙な立場にいる俺にとって、土日のバイトは案外都合が良かったりもする。
手稲区は札幌の中心街ほどではないにしろ、時給はいいので、高校生でも朝6時間の業務でもそれなりに稼げたりできる。
俺のシフト時間は朝9時から昼3時まで。
高校生は法律で8時間以上労働してはいけない、という規定があるので、店長にもそういった感じで組ませてもらっている。
この日も入荷した商品の品出しを頼まれていたのだった。
「いやー、沢城くんがいると助かるよー。なにしろ僕は背が低いからねえ。高いところは脚立を使わないと届かないんだよ。」
この陽気な人物は店長の宮西さん。
見ての通り小柄な男の人だ。
女子と並べても大差ないのではないかというくらい小柄だ。
「……これくらいでしたら、いつでも言ってください。……土日祝日くらいしか出勤できないすけど。」
店長はニコニコしている。
そして、俺に次の業務を出した。
「じゃー、次はコレ。頼むね。沢城くん。」
と、天然水の入った箱をカートの上にドカッ、と置いた。
わかりました、といい、俺は店内の売り場へ行った。
「ふう……結構重いな……。」
なんて呟いていると、綺麗な人が声を掛けてきた。
「おつかれ、沢城くん。」
色白の肌にハッキリとした、整った目鼻立ち、リップを薄く塗った、細いラインの唇に、しっかりと上で結ったポニーテールの女性だ。
その人は俺を労っている。
「……桐ヶ谷さん。お疲れ様です。……そっちはどうっすか?」
俺が桐ヶ谷さんと呼んだその女性は、「桐ヶ谷美智留」といい、俺より二つ年上の、ここのスーパーの2年先輩だ。
学校は違うのだが、俺がここに雇われてからこの人にずっと気に入られている。
業務を教えるのが的確で、尚且つ店長からも頼られている人だ。
……そんな人なのだが、むしろ俺としては一定の距離を保ちたい、というのはある。
悪い人ではないのはわかるのだが、裏がありそうで怖いので、俺の方からは決して近寄ったりしない。
「……うーん、やっぱり忙しいねえ。休日だからか、買い物にくるお客さんも多いしね。私の場合はレジとかもしないといけないから余計に忙しいよ。疲れるし。」
……と言いつつ、桐ヶ谷さんはテキパキと棚に次々と商品を入れていく。
入社1ヶ月の俺なんかとは、比べ物にならないくらい早い。
「……そうですか……。……俺は別にレジ業務は興味ないんですがね。……上に物を上げる仕事が適材適所のことらしいので。」
俺は桐ヶ谷さんの答えにぶっきらぼうに答えた。
マンネリしない程度でこういう形を継続出来れば俺はそれでいいのだから。
遊べる程度のお金は貰えるのだから。
「え〜?? そうー? 昇進とかって興味ないのー? 沢城くんさ〜〜。……もし今後レジ業務やるってなっても私が教えるからさ〜。安心してよねー?」
「……ないっすね。俺は器用な人間じゃないんで……。」
桐ヶ谷さんの問いを俺は自分の主観を交えてバッサリと即答で否定した。
「そっかー……。思春期男子ならさー……もっとガツガツ行ってもいいんじゃないかなー? 実際こういう時期ってさ、何もしないより何かした方がいいっしょや。……例えば……女の子と遊ぶとか。」
桐ヶ谷さんはニコニコとしながら俺の痛いところをついてくる人だ。
俺は中学の時にイジメを、主に井浦美空をはじめとした女子が中心となってイジメられていたが故に、今でも女性が苦手だった。
所謂「経験型ミソジニスト」。
こういう部類の人間としては軽い症状なのだが、現状こうして桐ヶ谷さんとは普通に話せているし、渡辺とも話せている。
決して女性が嫌いというわけでもない。
ただ俺が、過去の記憶のフラッシュバックで避けているだけだった。
悪気がないのは1ヶ月この人に教えられてわかったのだが、正直そこを突くのはやめていただきたかった。
「……女子と、っすか……。うーん……、ないっすね。別に誰かと遊びたい欲求はないですし、第一俺、物欲がないんで。まあ……性欲は多少ありますけど。」
「ほーう? そういう欲求はないけど性欲はある、か。ホントに君は面白いね。……そういってさ、女の子と偶然会って恋に落ちましたー! とかってロマンチストかと思っていたよ、私は。」
「……昨日、偶然会った、ならありましたよ。……クラスメイトと。」
「ほらー、やっぱりあるじゃん! どんな子? どこで?」
「……地味っ子と、ゲーセンで、ですが。……それが何か?」
「ほほー、そうなる、かあ。……面白い組み合わせだねえ。まあ、でもこれから何回も会うことになるかもよ?そういったケースで。」
興味津々な発言と、意味深な言葉が入り混じった話し方で来た桐ヶ谷さん。
ただ、和吹は俺が声を掛けたら脱兎の如く逃げ出したので、好意的な意味では見られているとはとてもじゃないが思えないし、少なくとも俺は和吹に対してそう思うことができない。
「桐ヶ谷さん……なんでそう、言い切れるんすか?」
「それはね〜。……君がムッツリだから。そういう星の元で生まれてるんじゃない? 君は。」
「なんでなんすか……。理由になってなくないっすか? それは。」
無邪気に笑う桐ヶ谷さん。
と、ここで、店長が桐ヶ谷さんを呼んだ。
どうやらレジに入って欲しいとのことだ。
「ああ、ヘルプか。……それじゃあね。沢城くん。」
と、レジの方へ桐ヶ谷さんは走って行ったのだった。
午後3時。
なんやかんやで業務を終わらせた俺は、アミューズメント施設に行った。
理由はもちろん格闘ゲームの練習。
そのアーケード台に向かっていると____。
今一番会いたくないやつに会ってしまった。
和吹だった。
まあ休みなので私服で過ごすのは当たり前なのだが、いつもとは違う感じの服装だった。
俺は意を決して声を掛けた。
「……和吹……。」
和吹は俺を見て声をあげた。
「ひゃっ!? え、さ、沢城くん!?」
急に俺に声を掛けられたのか、また見られたのかはわからないが、そういう反応をされると俺がやりにくい。
「……対戦しねえか?? ……今度、このゲームのオンライン大会があるべ? その練習だ。」
「え………? い、いいの……? 私なんかで……。」
俺の突然の申し出に戸惑いを隠しきれていなかった和吹。
俺はむしろ、こういう切磋琢磨できる間柄はいなかったので丁度いい相手ではあったのだが。
「……お前と対戦する方が練習になるからさ……。その代わり、クラスには言わないでおくよ。……俺の顔がクラス中に広まった時みたいにはしねえよ。」
「う……うん……。」
こうして、俺と和吹は対戦していったのだが、やっぱり俺と和吹はほぼ互角だった。
そして一時間くらい、飽きることなく二人で格闘ゲームをやり続けたのだった。
今後の予定としては、4人目のヒロインを登場させたいかなー、と思っています。
コンセプトとしては「悪役兼ヒロイン」です。
この物語で既に名前だけ出てきてますが、井浦美空です。行事とかも徐々に増えていくので、今後もお楽しみに。