第三話 小さな「キッカケ」から友達になり恋人になる
委員会決めの日。
この回は沢城の「友人論」を聞けます。
今日の一時間目は委員会決めだ。
まあ、要するに学級委員長とか、その他諸々を決めるようなもの。
俺はそういうのには全く興味がないので、というか、務まるような器量がないというのも自分で理解しているので、立候補しないつもりだった。
のだが、クラスの雰囲気は、クラスの中心は俺だろう、という見方だ。
やりづらいことこの上ない。
柿本先生が、委員長を誰がやるか、を聞いてきた。
クラスの集中が俺に集まるなか、窓側の後ろの方から威勢のいい返事が聞こえてきた。
声から察するに女子の声だ。
私やります! と言って手を挙げたのは、「渡辺沙里奈」。
確かにしっかりしてそうな見た目をしている。
まあ、見た目で判断するというわけではないが、俺が強制的にやらされなくて正味ホッとしているフシは俺の中にはあった。
前に出た渡辺が先生に変わって司会をする。
「副委員長は誰がやりますかー?」
見渡すが誰も手を挙げようとしない。
本当に人任せな奴らばっかだな、と俺は思った。
面倒事を嫌う俺ではあったが、それはクラスも渡辺以外同様だと思った。
仕方ない、やるしかない。
多分、俺が動かなきゃ他も動かないだろう。
ましてや、沈黙の時間なんて、それこそ時間の無駄だ。
「んじゃ、俺やるわ。」
さっと手を挙げた俺に対して、感嘆の声が沸き起こる。
そして渡辺の時より大きな拍手が来た。
「じゃあ、沢城くんで決定!! 委員会のメンバーの記入よろしくね、沢城くん。」
「お、、おう。」
まあ、副委員長というのは委員長のアシスタント的なものだ。
俺はチョークを持って、そのあと次々と決まる委員会のメンバーを黒板に書き記していった。
まさか俺の一声でこんなすんなり決まるとは思っていなかったのだが。
休み時間に、俺と渡辺は、先生からのプリントを取りに行った。
その職員室からの帰り道にて。
「あのー……さ。沢城くん。一つ聞いてもいい?」
「ん? ……まあ、俺で良ければ聞くけど。」
「和吹さん、いるでしょ? ……私さ……入学初日に声掛けたんだけど……なんか、オドオドしちゃってさ…それから話しかけにくくって……ああいう子の対応ってさ、わかるかな? 沢城くん。」
これまた難しいお題がきたな、と俺は思った。
しかもよりによって和吹か。
よくよく考えたら俺はアイツのことを「人当たりはよかった」という事実しか知らない。
ただ、そういう奴の心を開く心構えは知っている。
「……まあ、俺なんかの持論だけどよ……。なんかのキッカケがあればさ、そっから少しずつ仲良くなっていくようなもんだと思うけどな。俺は。」
「き、キッカケ??」
確かにすぐに仲良くなれそうな渡辺からすればよくわからない感覚だっただろう。
俺は続ける。
「……最悪の出会いが恋人だとか親友を生むって理論になっちまうんだけどさ……。お互い忌み嫌っているやつがいるとするわ。ソイツが一緒になった時、ペアで何かをこなさなきゃいけない。そうなった時って、最初はいがみ合うんだけど、時間が経つにつれて仲良くなっていくってケースが多いんだよな。……吊り橋理論とかそんなんじゃねーけど、仲良くなるってのは、キッカケだと思うんだわ。……そう考えたら先生の一言がなけりゃ、俺は声を掛けられることなんてなかったぞ?こんな見た目だし。」
「……沢城くんって、結構本気で考える感じ?? 友達って。」
「……まあ、そうとも言えるな……。仲良くなるのはさ、そりゃいいキッカケだと思うんだけど……それはすぐなれねえもんっしょ? 実際さ。……仲良い奴がさ、急に仲悪くなったり、険悪な関係になったり、はたまたいじめるいじめられるの関係になるのって、マジで些細なキッカケだったりするもんなんだわ……。そんなのを俺は中学時代に見てきたから今の環境は慣れない部分はあるんだよな。」
「でもさ……それだったら、桜田くんとかとさ、友達になろう、なんて思わないの?? 絶対仲良くなれるべさ。沢城くんの理屈だったら……。」
「……人ってのはそんな理屈で動く様な構造じゃねえ。……俺は嫌なんだよ。人の汚ねえ部分を……もう見るのは……。だったら最初っからダチは作んねーって決めてた方が俺としては楽なんだけどよ。……渡辺、俺の言ったことは人それぞれだからさ、あんま、アテにしねー方がいいぞ。」
俺はそういってスタスタと教室へ戻っていった。
「あ! ちょっと!!」
静止しようとする渡辺を俺は振り切っていった。
(……沢城くんって……中学の時、何があったんだろ……。考えられないよ……友達を作ろうとしない精神が……。でも……一理ある言い方だったな……。キッカケ、見つけてみるか。和吹さんとも、沢城くんとも、仲良くできる方法を……)
渡辺も俺の後を追って教室へ戻っていった。
三時間目が終わった後の昼食の時間。
桜田は相変わらず俺と仲良くしたい様だった。
「沢城さ……お前、腹減んねーの?なんだよ飲むヨーグルトだけって……。しかもマスク付けたまんまだしさ……。」
「別になんだっていいべや……第一そんな腹減ってねーし。」
そういう桜田の弁当はかなり大きいし量もある。
そんな小柄な体躯でよく食えるよな……と思いながら俺はヨーグルトを飲んだ。
「そんなだけだったら午後の授業もたねーべや……。家でもそんな感じか?」
「……まあ、食う方じゃねえしな……。ただまあ、これでもちゃんと朝飯とかは食ってっけどな。つーかお前の場合食いすぎだろ……」
「柔道部はこれくらい食わなきゃもたねーよ、部活までに。どんだけ投げたりさ、受け身とか取ったりするのにさ、体力使うと思ってんだよ。食わねーとそれこそ死ぬわ。」
「へー。柔道部か……。俺は帰宅部だからそんないらねーな、じゃあ。」
「なんでさ。てか本気で人が心配してんのになんでそんな平然としてられんだよお前。てかメシん時くらいマスク外せやマジで。」
「……俺の顔、見てえのか?? ドン引きするくらいブスだぞ?? 俺のツラ。」
桜田が俺の顔を見たい、と言いたそうな言葉に俺は訝しげになったし、少しイラッとした。
第一、人の顔見て誰が得するんだ。
こんな散々キモいと言われたこのブスヅラを。
「いや……お前が隠したいなら隠しゃいいだろうけどさ……そうじゃねーんだって! 邪魔くせえだろって言ってるだけなんだけど! まあ、気になるのはあるけどさ……。顔。」
「……まあ、俺の顔見て、お前がなんと言おうがさ、俺には関係ねーから別にいーよ。……慣れてるし。そういうの。」
「別に悪気があって言ったわけじゃねーよそういうの。沢城、お前ひねくれすぎだっつの。」
……まあ、明日体育あるし、その時見せれるかな……。
俺はその時、こう思った。
俺のこの謎の人気者ぶりは明日で一瞬にして地に落ちるだろうな、と。
翌日、体育の時間に俺の顔を見たクラスの男子は、驚いていた。
俺はこの時、ああ、やっぱ汚ねえんだな、俺の顔。
と、思ったのだが、クラスの反応は違っていた。
「お前……。意外とカワイイ顔してんじゃん! なんで隠してたんだよ!!」
相川が俺のことをカワイイ顔、とかと抜かしやがったからだ。
「……は??」
授業後、教室に戻る最中に、そう言われた俺。
もう既にマスクに戻していたのだが、俺のキモいと散々言われてきたこのツラが意外とカワイイ? 冗談じゃない、と思っていた。
「いや、は?? じゃねーわ!! 俺たちが逆に、は?? だわ!! お前中学の時キモいって言われてたからそうしてただけだったのか!?」
いい意味で言ってるのか?? それとも冷やかしだろうか。
まさか俺の容姿で良く言われたことが0に近いほどなかったので、俺は戸惑っていた。
「まあ……キモいって言われたのは事実だけどよ……。」
このカミングアウトに全員が例外なく、えーーーーー!! とドン引きした。
「いやいやいや、お前でキモかったらクラスのレベルが高かっただけなんじゃねーの!? 頭沸いてるべや、お前の中学の奴ら!! 少なくとも俺よりいいわ!!」
嶋田が俺の顔を褒め称えている。
確かにそうかもしれなかったのかもしれないが、そんな顔がいいわけでもないからどう反応していいかわからなかった。
嶋田の自虐に他の奴らも笑ってるし、実際はよくわからない。
少なくとも俺の胸中はそんな感じだ。
「……わりい、コーヒー買ってくるわ。」
俺はそういって、クラスの輪から離れて自動販売機でコーヒー牛乳を購入して教室へと戻っていった。
この話はクラス中に広がり、俺の顔を見たいと女子が寄ってきたのだが、俺は悉く断った。
女子ウケしないのは分かっていたからこそできた行動だった。
沢城のクラスの人気が確立されてしまったところで、時間は1ヶ月後に次回は飛びます。
この沢城がいったキッカケの回収がされ、事態は急展開を迎えます。お楽しみください。