第二話 何故か「意識高い系男子」と言われるようになった元いじめられっ子
いじめられっ子が急に人気者になったら戸惑うのは当然ですwwww
中盤でこの物語のキーマンになって来る人物が出てきますが、登場して来るのはだいぶ先です。
クラスに笑いを堪えられる始末に加え、居ないと思っていた中学時代の同学年のやつがいるという事実。
俺の高校生活は前途多難、悪目立ちの予感しかなかった。
……まあ、別に悪目立ちするのは気にしてはないのだが、問題は「和吹夏菜」。
こいつに俺の過去を言われたら俺の高校人生は終わりだ。
黒歴史が蘇ることとなるからだ。
俺がそんな懸念をしていた時、担任の教師が入ってきた。
その担任教師の名前は「柿原英治」。
まあどう見ても中年教師だったのだが、その教師と目があった時、こう言った。
「お〜……マスクか。入学式に……。……いいねえ、こんな意識高いやつ初めてだよ、入学式早々でな。……風邪対策か?」
え……? マジで?? 別に風邪対策でもなんでもなく、あくまで俺のキモ面隠しのためなのだが、まさか「意識高い」と言われるとは。
完全に予想外だった。
「……別に意識はしてませんが……。褒めても何も出ないっすよ? 先生。」
バッサリした俺のツッコミに教室中は笑いが起こる。
あんな、わや※(酷いや、クソみたいな、という意味で使われる)なギャグをやってる暇はないんだがな……俺はそう思っていた。
「ハハハ、照れるな照れるな? で? 名前は……。沢城か。ま、頑張れよ。」
この時俺は何も言えなかった。
複雑なのには変わりなかったが。
そして入学式会場に全員で移動した。
で、式が終わった後、俺はクラスの皆から「意識高い系男子の沢城」と呼ばれることになるのだった。
(は〜……逆の意味で目立っちまったな……。まさか俺が入学早々人気者になるとはな……。)
新央高校からの帰り道、俺は逆に憂鬱だった。
予想していなかった展開だったからだった。
それで電車の中でこう考えていた。
もう、ぼっちライフを送れることはないな、と。
(別に面白いこと言ったつもりはねえんだけどな……。てか和吹だけは俺に話しかけてこなかったし、やっぱりアイツ、俺のこと覚えてるよな……俺がクラスで言われてたことも全部。)
そして俺は手稲駅のホームを出て、家に帰った。
「ただいまー……」
力のない声で俺は玄関へ入った。
「おう、お帰り。どうだった? 入学式は。」
親父の章治郎が入学式の感想を聞いてきた。
「別に……どうってこたぁねえわ。けど……何故かこのナリで教室入って先生にボケかまされてから『意識高い系男子』って言われるようになっちまったわ。」
「あらあら、いいじゃない、勝樹。ズボラなアンタがそう言われるってことは好印象でいなきゃいけないって意識づけにもなるっしょ?」
お袋の名は成美という。
お袋は別に俺の理解者ではないが、無駄にポジティブ思考の持ち主だった。
そんなお袋に俺はこう言った。
「……別にそんな意識してマスク付けたわけじゃねーよ。俺が付けたいから付けてるだけなのに変に勘違いされても困るわ。」
俺は手を洗って部屋へ戻っていった。
駅近くの6LDKの一室で暮らしているので一階しかなく狭い。
そんな中で大学生2年生の姉貴、奈央と4人暮らしなのだ。
「あの子、ホントにいつからこんなひねくれたのかしらねえ。」
「まあ、いいんでねえの? 反抗期の一環だろ?」
「そうかもしれないけど、ちゃんと友達出来るかどうかじゃない? あの子の課題といえば。」
「どう送るかは勝樹の自由だべ? 少なくとも父さんたちが口に出すようなことではないべさ。」
両親の会話が聞こえてくる。
まあ、俺はぼっちライフを送る予定ではあるので、波風立てないでなるべく生活したい。
そんな思いでいっぱいだった。
部屋のベッドで寝転がった俺は考えていたことがあった。
(………和吹は何故下を向いていたんだ?ずっと。俺の知っている和吹はあんな暗いやつじゃなかったしな……。やっぱあの時の劇でアイツが放送事故起こしてから何かあったんじゃねえか? 俺のところも金賞は取っても俺はやられ役だったから俺はあのまんまだったしな……。むしろアイツの方がますます人気出やがってよ……。チッ、思い出すだけでぶん殴りたくなるわ……)
そう思い浮かべたのは当時のクラスの人気者であり、俺のイジメの主犯格____「井浦美空」のあのクソムカつく顔だった。
そして翌日。
まだ眠気の残る俺はあくびをしながら教室へ入っていった。
「おう、おはよう沢城。」
1番廊下に近い席の1番前の奴、「相川恭平」に挨拶をされる。
俺も礼儀の一環として返した。
「………おう。」
側から見たら素っ気ないのだが、それも俺だ。
誰ともつるむ気はないのだから。
相変わらず黒マスクを付けている俺になんで声を掛けてくるのか俺にはわからなかった。
前の席の「桜田順平」も話しかけて来る。
「よっ、意識高い系男子!」
「やめろってのそれ。俺はそんな奴じゃねえっての。……『沢城』でいいべや。そんなくだんねえあだ名はなんだよ。」
「だって、風邪ひかないように意識してんだべ? 皆勤賞狙ってんだべさや。」
「……別に狙ってねーっつの。……大体俺はそんな人当たりよくねえし。」
「またまた〜。人気者だって自覚くらい、すれよな?? 誰が来ても対応できるようにしとけっての!」
「だからそんなタマじゃねえっつの、俺は。大体俺みてーな奴がクラスの中心とか、ゴミの掃き溜めみたいな雰囲気なるだけだべや……。アレどう考えても先生のギャグだろ。そもそも桜田も俺が最初に入ってきた時笑いかけてただろ。そっからのギャグで人気者とか周りがいくら言っても俺が認めなきゃ、それは人気者じゃねーよ。」
「照れんなって沢城! これでも褒めてんだぜ?? 何せ何も知らねーからな! 俺たちは、お前のこと!! 第一印象は大事だぜ? 高校生活を送る上で!」
桜田が俺の肩をボンボンと叩く。
俺はため息を吐きながらこう漏らした。
「……冷やかしてんなら首つっこむんじゃねーよ……。……とにかく、俺は一人ライフで行くって決めてっからいくら話しかけても仲良くはしねえからな?」
「はあ〜〜〜?? 何だそれ。いいじゃねえかよ。少なくとも俺はお前と仲良くなりたいってのによ〜。」
「………知らねえからな?? 俺の中身知っても。てか単純にうぜえんですけど。」
桜田が俺にダル絡みをしているのを尻目に周囲から爆笑が起きる。
俺はその笑い声を訝しげな顔をして聞いていた。
そして、今日は委員会を決める日。
別に興味はないのだが……何故か俺がクラスの中心という雰囲気が漂っていたのだった。
次回も展開はそんな動きません。あるきっかけが来るまではもう少しかかります。
それまでは沢城は素っ気ない態度となりますが、ゆっくりお付き合い願います。