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時雨凛乃の読書記録

作者: 星降 香音


 はじめましての方ははじめまして。お久しぶりの方はお久しぶりです。

 とうとうミステリーにまで手を出しました、星降です。


 この作品はなろうで書こうとして、部活(演劇部)の台本になって、でもやっぱりなろうでも書いたっていう良くわからない経緯の持ち主なので、暖かい目で読んでくださいませ。







宮津風(みやつかぜ)先生の『月の光』が無い!」


 私は、軒先に吊るされている花達と並んでいる~BOOKCAFE SIGURE~という看板が春風に悪戯されている音を聞きながら堂々と本を読んでいた。しかし、店内で響いた店長の一言に意識を奪われる。


 この、怪事件は私の叔母である凛姉(りんねえ)こと時雨(しぐれ)凜乃(りんの)のたった一言から始まったのである。


「……あれ?それって凛姉が楽しみにしてたやつじゃなかったけ?えっと……。」


 私、時雨涼葉(みんと)は辺りを見回し首をかしげる。おかしい、見当たらない。

 仕方がないので常連客で彩矢(あや)さんと慕っている佐藤彩矢に聞いてみた。

 完全な余談だが、彩矢さんは男装の麗人で、凛姉曰く「バレンタインはチョコで動けなくなるほど人気」らしい。……さすがに誇張だとは思うが。


「……彩矢さん、凛姉がどこに置いたか見てませんでしたか?」

「え、僕?……先輩は……たしか……カウンターの上に置いてた気がする。涼葉ちゃんがいつも座ってる辺り。」


 すると凜姉は頷いて呟いた。


「そうよね……でも今見たら無いのよ。何処にいってしまったのかしら。」

「おかしいな、さっきお茶を頼んだ時にはまだありましたよ?」


 彩矢さんにも凜姉の呟きが聞こえたようで最後に見たときを教えてくれた。

 確かに私も15分程前、彩矢さんに紅茶を出したとき見たように思う。


「凜姉は、そのあとさわってないの?」

「触ってない……と思うわ。ちょっと探してみるわね。」


 そう言って凜姉はカウンターの奥にあるバックヤードに入って行った。


「ふぅー。」


 読んでいた本を読み終わりそういえばと問い掛ける。


「彩矢さん、なにか注文しますか?とは言っても私では紅茶くらいしか淹れられないですけど。」

「ううん、今はいいや。って、そういえば涼葉ちゃん。」


 新しい本を手に取ると彩矢さんに呼び掛けられた。私は、不思議に思い首をかしげる。


「何ですか?」

「今日、学校は?」


 そう、今は平日の真っ昼間。そして、私は立派な中学生。長期休暇でも開校記念日でもない今日は、本来ならば学校に居るはずである。


「あー……ちょっといろいろあって……今、学校行きずらくて……サボっちゃいました!」


 えへへ、と笑いながら冗談めかして彩矢さんに打ち明けてみた。パタパタと階段を上る音がする。どうやら、凜姉は2階(うえ)の書架にまで探しに行っているらしい。


「それに……ちょっとズル休みしてみたかったんですよね。ほら、どうせ高校に入ったら簡単には休めなくなりますし。」


 にこりと微笑んで、次の本を開く。それと同時に話も変えた。


「……それにしても、凛姉が本の場所を見失うなんて……明日は雨かもしれないですね。」


 彩矢さんも分かっていて乗ってくれるのだから優しい人だと思う。


「……そうだね、ほんとに珍しい。」

「雨だと本が湿気るので管理が大変なんですよね……。祖母の書庫は私が管理してますし……。」

「涼葉ちゃんがお祖母様の本を?」


 彩矢さんは目を丸くして聞き返してきた。


「そうなんです。祖母は体を悪くして以来すっかりベッドの住人になってしまったので。」


 ぽりぽりと頬を掻いて続ける。


「祖母の蔵書は量が多いので大変ですが楽しいですよ。……それにお小遣いも貰えますし、本も借りられるので。」

「そうなんだ、なんか先輩みたいだね。」

「すごい!よく分かりましたね。そうなんです。私の前は凛姉がやっていたんです。」


 書庫管理は私で2代目だ。

 彩矢さんには量が多くて大変と言ったがそんなに難しいことではない。合鍵の管理と、新しい本に祖母の蔵書印を押して、空調の温度と調子を見たらあとは誰かが借りた時に記録を取るだけだ。


「あ、そうそう。宮津風先生の作品も全て所蔵されているんです。『月の光』も昨日届きましたしね。」


 すると彩矢さんはガタッと音を起てながら立ち上がり詰め寄ってきた。


「中崎(ゆう)先生の作品もひょっとしてあったりする?もし、僕が持ってないのがあれば借りたいなぁ……。」

「そういえば彩矢さんは中崎先生のファンでしたね。……たしか、『空白シリーズ』の最新作以外は全てあったはずです。」


 そう答えると彩矢さんは「あー。」と言って、座っていた席に戻っていった。


「そっか、『空白の魔女』はないのか……。」

「『場所』から『日付』までならありますが『魔女』はまだですね。」


 『空白の場所』、『空白の時間』、『空白の雨音』、『空白の日付』、『空白の魔女』。

 なんで最新刊が無いのかと言えば祖母が仕入れていないから、としか言いようがない。


 閑話休題。


 暫くページを捲る音だけが響いていた。それを破ったのは彩矢さんの思い出したような問い掛けだった。


「ねぇ、気になってたんだけどさ。さっき、涼葉ちゃんが片付けに行った本のブックカバーって先輩とお揃い?」


 そういえば、持ってきた本が読み終わったときに一度片付けに行った。たしか掛かっていたブックカバーは祖母の手作りの物だったように思う。


「はい、祖母が文庫本サイズのと、四六判サイズのやつを作ってくれたんです。」

「へぇ、そうなんだ。」

「シンプルでどんな本にも合うので愛用してるんです。」

「なるほどね。確かにシンプルだと合わせやすいよね……僕もそういうやつ作ろうかな……。」


 再びパタパタと音がして凜姉が戻ってきた。


「あ、先輩。『月の光』ありましたか?」

「いいえ見当たらないわ。」

「え?ほんとに無いの?」


 書架(うえ)にも(バックヤード)にも店内にも無いだなんておかしなことだ。だって、今日ここにきたお客さんは彩矢さんだけで。私と凛姉は裏に入ったり書架に行ったりしているとは言え、店からは出ていない。


「本当に見当たらないわ。何処へ行ったのかしら?」

「その……不謹慎なんだけど……なんだかワクワクしますね。ミステリー好きの血が騒ぐと言うか……。まぁ、この規模だとライトミステリーだろうけど……。」

「たしかに……。でもこの私から本を奪うミステリーなんて……。さっさと紐解いてしまうわよ。」


 凜姉がとても頼もしく見えるがふと素朴な疑問が湧いてきた。


「さっさとって凛姉なにか宛はあるの?」

「無いわ、まだ全然。」

「無いのね……。」


 彩矢さんが思わずという様子でため息を吐いた。


「さすが先輩です。……あ。でも涼葉ちゃん、先輩は5年前にも事件を……」

「そ、そんなことより今は謎を解く方を優先させましょ。」


 彩矢さんが言い終わる前に凜姉が被せたからよくわからなかったけど5年前に何かあったらしい。


「本はもちろん探すけど……凛姉、5年前って何かあったの?」

「…………黙秘するわ。」


 チラリと彩矢さんを見てみる。すると、彩矢さんはそっと囁くように一言、


「また今度話すよ。」


 と。そして凜姉を横目に微笑んだ。


「……先輩のいない所で、ね。」


 ウィンク付で。


「ちょっと待ちなさい、せめて私の目の前にしなさいよ!」

「仕方ないですね……分かりました……。」


 渋々と頷いていても絵になるなんて美形は狡いと思う。


 そんなことを考えていると凜姉がぱちんと手を鳴らせた。凜姉の方を向くとにこりと微笑まれた。


「よし。じゃあ、状況を整理しましょう。まず、本が届いたのは今朝だったわよね。」


 凜姉の言葉には不思議と力があった。呑まれないように口を挟む。


「うん、私も一緒に受け取ったよ。」

「ええ、そうね。涼葉も一緒だったわね。」


 しっかりと頷いておく。


「次に彩矢ちゃんが店に来た時にはまだあったわね。」

「はい、お茶を頼んだときまでありました。涼葉ちゃんも見たよね。」

「うん、見ました。でも凛姉が確認した時にはもう無かったんでしょ?」


 確認したときに無かったからこそあの一言に繋がったのだ。


「そうなの。つまり、彩矢ちゃんがお茶を頼んでからわたしが確認するまでに消えたっていう事ね。」

「意外と短い間に消えたんですね。」

「確かに思ってたより短い間みたい。」


 およそ15分の間当然のように誰も店内に入ってきていない。3人しかいないのだから誰かが入ってくれば嫌でも目立つ。


「そうね、一体何処に…………あ。ねぇ、涼葉。今日も本持ってきてたわよね。」

「え?うん、いつも通りだけど?ほら、ここの2冊もそうだし。それが、どうかしたの?」


 カウンターの端、私の椅子のすぐ近くに置いてある2冊の本を指して首をかしげる。


「解けたわ。」


 解けたとは。


「解けたって謎ですか?」


 彩矢さんが私の気持ちを代弁するかのように凜姉に問い掛ける。すると…………


「そうよ当然じゃない。それ以外に何があるのよ。」


 という、言葉が返ってきたのだ。


「速っ、もう解けたの?」

「さすが先輩。」


 私の言葉の後に、先程とは打って変わって感嘆するように呟く彩矢さんの声。

 凜姉はうふふんと表情を緩めてから一拍置いて、私の問い掛けに答えた。


「ええ。もう紐は絡まって無いわよ。」


 と、どや顔である。

 さっきの紐解く宣言に掛けているのだろうか、と思いつつ一番気になることを訊いてみる。


「それで、『月の光』は何処に有るの?」

「きっと涼葉のリュックの中、よ。」


 え、と声に出ていたかはわからない。


「私のリュック?ちょっと待っててリュック、持ってくる。」


 バックヤードに急いで(当社比)入り、片隅に置いてあるリュックを掴んで戻った。狭い店内なのに常にある空席にそっと置き、中を覗く。


「えーと……あっ、これ中身『月の光』だ。」


 ブックカバーがついている本の一冊が『月の光』だった。


「ね、あったでしょう?」

「凛姉、凄い!なんで解ったの?」


 まるでミステリーの探偵役みたいだ。


「まず、私と涼葉は同じブックカバーを使っているでしょう?」

「うん。おばあちゃんが作ってくれたやつでしょ?」

「ええ、それよ。私、『月の光』を読もうと思って母さんのブックカバーを掛けたのよ。」

「あ、僕見てました。」


 つまり……?


「あ!そういうこと?」


 私にもことの全容が見えてきた。


「おそらく凉葉が気が付いたので合ってるわ。きっと涼葉の本の中に混ざっちゃったのね。」

「私、今度から中身を確認してからしまうね。」

「ええ、そうしてちょうだい。」


 凛姉の言葉にこくりと頷く。お互いに理解してニコニコしていると、申し訳なさそうな声が聞こえてきた。


「あの……まだ1人だけいまいちよく解ってないんですが……。」


 と。

 私と顔を見合わせた凛姉が「今順を追って説明するわ。」と言って話し始める。


「この怪事件の発端は私がブックカバーを掛けたことなのよ。私と姉の雪乃と涼葉と時葉(たいむ)……涼葉の妹は母から貰ったブックカバーを使っているの。」


 うんうん、と私も頷く。


「その話は、涼葉ちゃんから聞きました。……雪乃先輩や涼葉ちゃんの妹さんのことはいま知りましたが……。……というか凉葉ちゃん、妹さんいたの?」

「あれ?言ってませんでしたか?」

「初耳だよ!」

「んー彩矢さんには伝わってるものだと思ってました。」


 言ってるつもりだったんだけどなぁ……と、独り言ちる。


 凛姉のもはや声に出している咳払いを聞いて彩矢さんに向けていた視線を凛姉に戻す。


「それで、涼葉はいつも本を持ってきているでしょう?そして本は直ぐに読み終わって仕舞いに行くわよね。……それに今日も安定の速読っぷりだったわ。」

「まぁ、人よりは少し速いかなぁって感じだけどね。」

「え?凉葉ちゃんで、少し速い……ってことはじゃあ僕は遅いってこと?」

「いえいえ、まさか。でも凛姉の子供時代の話を聞くと本当に少しって感じですよ?」


 1日に500ページ前後の本を15冊読んだとか、1000ページくらいの本を30分で読み終えたとか。しかも、飛ばし読みじゃなくて全部頭に入っているという……同じ人間とは思えない逸話ばかりだ。


「そんなことないのだけれど……。まぁいまは置いておいて、彩矢ちゃんがお茶を頼んでから私が確認するまでに本を読み終わったんじゃない?」

「うん、読み終わった。それで仕舞いに行ったんだけど……。」

「間違えて『月の光』まで持って行っちゃったってわけよ。」


 結局私の不注意が招いたことだったって訳だ。


「なるほど……。じゃあブックカバーに見分けがつくようなアップリケを付けるっていうのはどうでしょう?……イニシャルとかでもいいですけど。」

「!彩矢さん、名案です!アップリケかぁ、どんなのにしよっかなぁ……。でもとりあえず、今日の話を時葉にも教えてあげなきゃ。」


 きっと凛姉崇拝が加速するのだろう。


「止めなさい。」

「えぇ〜。」


 ……先に手を打たれてしまった。むぅ……と不貞腐れていると、彩矢さんにくすくすと笑われてしまった。


「ご説明ありがとうございます。では、時間ですし謎も解けたので私はお暇しますね。」


 凛姉が電卓で計算した金額を彩矢さんが支払っている。

 からんころん、とドアベルを鳴らしながら扉を引いた彩矢さんが「あ。」と言って振り返る。


「涼葉ちゃん、今度書庫に遊びに行ってもいいかな?」

「えと、祖母に確認しておきます。」


 さすがに勝手に人を入れるのは駄目だろう。

 緩んだ頬を引き締めて凛姉と一緒にお辞儀する。


「「また、お越しください。」」


 小さく手を降ると、彩矢さんも返してくれる。「はい、また来ます。涼葉ちゃん、またね。」と言い残して、彩矢さんは帰って行った。


「さて涼葉、お客さん居ないしお茶にしましょ。」

「……分かった。」


 私は、「きっと今日のお客さんはほんとに彩矢さんだけだな。」と思いながら紅茶を2杯淹れる。

 ついでに、その辺に仕舞われていたマカロンとチョコレートを、これまたその辺に仕舞われていたお皿に乗せてカウンターに並べた。


「ちょっと、涼葉。これ、秘蔵のお菓子だったのよ!?」

「見付かるところに隠してある方が悪いんだよーだ。」

「まったく、仕方ないわね……。」


 最後の「後でお姉ちゃんに奢って貰えば良いわね。」と言うところは聞かなかったことにしよう。そうしよう。

 ……お母さん、ドンマイ。







 ……星評価ください。いや、本当に。

 1でも、2でも評価が付いたらめちゃくちゃ喜びます。

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