君は綺麗になった
外から見ると古く見えた小屋だが、意外と中は清潔に保たれていた。
孤児院と対照的だな、とブライアンはぼんやりと考える。
だが、ブライアンは妙な違和感も感じていた。
この小屋は何かが日常と決定的に違う。
(けど、一体何が?)
「お客様用のお茶がないの。私のブレンドしたハーブティーしかなくて悪いわね」
「いや……」
リリアが用意したお茶からは清涼感のある良い香りがした。
色々な事があったせいでギチギチと固まったブライアンの身体と心が、リリアのお茶でほっと弛緩する。
忙しそうに動くリリアは以前と変わらない。
だが各段に綺麗になった。
いつも泥や煤まみれだったが、今はどこにも汚れはない。
髪の毛の艶は増し、動きに合わせてさらさらと流れる様に目を奪われる。
何より笑顔だ。
楽しそうに動き回っている。
目を伏せて何かを諦めていたようなリリアが、今は表情を緩めて微笑んでいる。
余裕の表れなのか、ブライアンにも優しく手を差し伸べて助けてくれた。
(むかつく)
リリアの変化に関わっているのは、斜め向かいに座って自分を冷たく見下ろしている人物だろう。
口を開くこともなく、ブライアンを監視している。
(いや、人なのか?)
正直なところまったく「人」には思えない。
底冷えする程の美貌だ。
内から輝くように光を纏い、全身が白く瞳は暮れゆく空。
そんな加護の色は聞いたこともないし、全身でとある存在を主張している。
だが、まさかという思いがあと一歩の思考を中断させる。
ブライアンを全く意に介していない不思議な生物たち(水で出来た金魚に、鳥に、ドラゴン?)を見て確信に変わりつつある。
おそらく、精霊。それもとんでもなく上位の。
しかしなぜ無加護であるリリアの元に?
「あの、はじめまして。ブライアンと申します」
「……」
美貌の青年はブライアンの挨拶など聞こえなかったように全く表情を変えない。
何を考えているのか全く分からないが、敵意だけは存分に伝わる。
挨拶を返さないのは失礼な行為ではあるが、そもそも対等ではないのだとブライアンは腑に落ちた。
じっと睨まれると呼吸も上手く行えない程緊張する。
ブライアンは縋るように、リリアの淹れてくれたお茶の入ったカップを握りしめた。
その様子にエレスの眉の険がわずかに深くなったのを、ブライアンは気づかない。
村にいた頃より自信に満ち、美しく笑うリリアになんて声をかければいいのか、ブライアンには分からなかった。
ブライアンはリリアに対して立場を誇示し、力で支配下に置くやり方しか知らない。
ただでさえリリアには相手にされていなかったのに、これでは自分の側にいてくれるはずがない。
村で評判の自分の顔も、目の前にいる人ならざる完璧な容姿の前ではあくまで人の中の誤差だ。
リリアはブライアンの向かいの椅子、エレスの隣に腰を下ろした。
「エレス。この人はブライアン。村にいた時の……えーっと、知り合い」
「知り合い?」
「知り合い?」
エレスとブライアンの声が被る。
「知り合い、じゃなかったらなんて言えばいいのよ。友達でもないのに。顔見知り?」
友達でもない。
その言葉にブライアンは一人ショックを受けていた。
ゆくゆくは自分の愛妾なのに、友達でもなく、知り合いで、顔見知り。
「ブライアン、こちらはエレス。精霊王なんだけど今は私のお手伝いとかをしてくれているわ。それで右から大精霊のアエラス、フォティア、ウォネロよ」
途端、ブライアンは椅子から転がり落ちた。
リリアの紹介の情報量の多さとギャップに気持ちも何もかもが追い付かない。




