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逃亡馬券生活   作者: 狂死狼
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第6章  競馬狂の詩 3

「俺は殺人者だ。行方をくらませ裏街道を歩き、人目を避けて生きるしかない。投資馬券が唯一の生活の糧だ。共犯者優香とのあらたなるサバイバルの日々を綴ってゆく」

(1) 親父の狂言  その3



 二日酔いでフラフラの頭のまま朝9時に事務所に顔を出すと、すでに5組ほどの被害者家族と思われる人たちが押し寄せていた。事務の竹下さんが対応に追われていた。岡林所長は例の事件でまだ留置場の中だ。これには本当に困った。

途方にくれそうだったが、ウサミさんがすぐに事務所にやってきたため、手分けして対応することになった。


 坂上文江(66)は娘とともにご主人のことを訴えた。

「うちの主人が数日前から家に帰ってこないんです。通帳やら印鑑、キャッシュカード、年金手帳まで持っていったままなんです。どうしたらいいのか……警察にいっても事件性がないから、民事は扱えないとか言われて……」


 高橋美恵子(72)は息子が被害に遭っているようだ。

「ゆんべ、息子がすばらくぶりに帰って来たんだス。とごろが、心ここにあらずてな雰囲気で……家の金、全部出せっつって大声ば出すもんだがら……スかたねェ。生活費も年金のお金も全部渡スちまったんだス。どうスたらいいもんだべが」


泣きながら訴えるそれぞれの家族の悲痛な叫びは嫌というほどに伝わってきた。

連絡先や家族構成、被害のあらまし、例の組織に捕らわれているであろう家族の情報などをまとめてファイルにし、いったんは引きあげてもらうことにした。

 ひとしきり接客が終わると事務所にはようやく静寂が訪れた。

 竹下さんが煎れたコーヒーで一息つくことができた。この様子では、おそらく被害ははるかに拡大しそうな雰囲気だった。

 陳さんとナカムラさんが途中事務所に顔を出したのだが、それぞれが扱っている案件が急を要するため、全部任せるからと言ってすぐに外へ飛び出して行った。

「さあ、どうしたものか……」

 ウサミさんは椅子に腰かけ、たくましい筋肉の塊の二の腕を組んでこの案件をどうするべきかを決めあぐねていた。

 俺も隣りの席についてあれこれ思案したが何もまとまらない。

「すみません。俺が言うのもアレですけど、岡林所長ならこの件どう判断するんでしょうね?」

「うむ……そうだな。答えはひとつだ。悪い奴はやっつけろだ!!」

 出た。


『岡林探偵事務所 探偵マニュアル10カ条』


3. 悪い奴はいくらでもいる。せめて我らは 正義をつらぬけ!!


 こんなんでいいのかよ? といった多少の疑問はあるものの、おおむね俺はこのマニュアルに書かれていることはどっちかっていうと好きだった。

 だけど、いったいどう調査するべきなのだろうか。さすがに新人の俺よりもベテラン、ウサミさんの経験に頼るべきだろう。

「おい。狂死狼」ウサミさんは腕をほどいて言った。

「は、はいッ」

「俺はな、こまけえことを考えるのは苦手なんだよ」

「は?」

「だからな、まずどうすればいいのかをお前が考えろや」

「えッ」

 目が点になった。この人、よく今までここに勤めてこれたな。腕っぷしの強さがけが取り柄のようだ……。うろたえる俺を見て、竹下さんが目配せをしてきた。ウインクのつもりなのだろうが、ほとんど両目が閉じらるために意味が良くわからなかったが……まあいいや。

「わかりました。ではまず被害に遭われた方のそれぞれの家に行って、もう少し詳しく状況を調べましょう」

「おおそうか。それがいいのな? 俺は別にこれからすぐ、悪玉の総本山に殴り込んだっていいんだけどな」

「いえ。それは確かな証拠とか、いろいろ準備をした後で」

「おお。それもそうだな。狂死狼、お前なかなかやるな」

いきなり、二日酔いの頭に頭痛とめまいが襲ってきた。

 まあやるしかないか。競馬に関しては俺もいささか含むものがある。

 ようし、やったるぜ!!!

 俺はいつになくやる気になっていた。




               続く

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