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逃亡馬券生活   作者: 狂死狼
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第6章  競馬狂の詩 1

「俺は殺人者だ。行方をくらませ裏街道を歩き、人目を避けて生きるしかない。投資馬券が唯一の生活の糧だ。共犯者優香とのあらたなるサバイバルの日々を綴ってゆく」

(1) 親父の狂言  その1



その後、蓮子は三週間ほど市内の病院に入院していたのだが、覚せい剤取締法違反で起訴されたため、退院後即、拘留されることとなった。幸い軽度の依存症だったため覚せい剤を完全に絶つことができたということだったし、初犯であるためほぼ執行猶予が見込める運びとなった。

 源は司法解剖にまわされ、覚せい剤使用による幻覚から派生した自殺であると認定されたのだが、遺族は遺体の引き取りを拒否した。過去の経歴から仕方のないことかも知れなかった。

 そのため、彼は無縁仏として埋葬されることとなった。

 今でも俺には忘れらることが出来ない。

「俺は源だ。心が入れ替わってしまったんだ」蓮子のあの言葉ははたして幻覚なのか……あるいはただの思い込みだったのだろうか?

 今となっては真相は藪の中だ。でも俺には、源が本当に蓮子の体に乗り移ったのだとしか思えない。それは、蓮子を死なせたくないという強烈な彼の願望が、彼女の脳に作用したからではないのだろうか……

 そして自分を見つけ出し、全てを終わらせるようにと蓮子の体を、岡林探偵事務所へと向かわせたのではないだろうか? 


 あまりにもぶっ飛んだこの事件を、何も知らない俺みたいなド素人が担当する羽目になるとは……どこまでも不運だ。我が身の呪いはいつ解けるのだろうか?


 幸い、入社最終試験を無事合格となった俺は、優香の店へ行ってみることにした。一応の祝いを兼ねて、この機会に優香の様子を見てみたかったのだ。

 繁華街の外れの雑居ビルにある、ありふれたスナック『ルージュ』という店だ。

 店内は半分ほどの入りだった。

 50代の千尋さんがママで他に女性が二人。一人は奈々(「=優香)で、もう一人がアリサ(推定年齢=36歳)さんだった。今日は非番だがミチル、レナという子もいるらしい。個性的な女性が待つ店としてけっこう人気があるのだと優香から聞いていた。確かに個性的だ。千尋ママは相当な美人だったろうと窺わせるが、今は整形が崩れた様相を呈している。歌はプロ並みだ。アリサさんは前頭3~5枚目の辺りをうろうろしている関取の雰囲気だった。

 優香が目配せをしたせいで、千尋ママもアリサさんも理解したようだった。つまり、俺たちをボックス席に押し込んだ。ごゆっくりネと千尋ママがケバい瞳をウインクさせた。俺は何だかぞぞぞと、背中がむず痒くなった。


「やっと来てくれた。うれしい。どう、お仕事の方は?」

 優香は慣れた手つきで焼酎の水割りを作りながら微笑んだ。

「ああ、どうせ人手不足だからさ。まあ無事に正式採用になったよ」

「やったあ! さすが。じゃあ、乾杯ネ」

 満面の笑みだった。かなり短いスカートが気になった。薄いピンクのナースぽい制服だ。ママの売り出し方針は単純明快だなと思った。

 ママやアリサさんも時々加わり、俺たちはいい感じで飲み続けた。マイクを握ると、おもに昭和の歌謡曲を歌った。下手でも場は盛り上がった。

ふと、カウンターの片隅でブツブツ言いながら競馬新聞を開いている親父の姿が目に入った。時おり舐めるようにグラスの焼酎を飲んではため息をついている。ママもアリサさんも、勝手にどうぞ、てな感じで相手にもしていない。

 耳をそばだてると、その親父のつぶやきがなんとなく聞えてくる。

「明日……こいつが来なければ……まあしょうがねえ。生きるか死ぬか……仕方がねえべ。ご本尊様はいつだって守ってくださる。助けてくださる」

 親父はJRAのマークシートに赤ペンを叩きつけるようにして塗りつぶしていた。

 そして、一気に焼酎をぐびりと飲み干すと、宙に目線を泳がせやがて口から泡を吹くと同時に、崩れるようにストールから床へと落ちていった。


 俺は酔いも覚めると同時に、なぜか周りの状況を事細かく、探偵の眼で見つめていた。





               続く



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