第5章 夜に舞う華 11
「俺は殺人者だ。行方をくらませ裏街道を歩き、人目を避けて生きるしかない。投資馬券が唯一の生活の糧だ。共犯者優香とのあらたなるサバイバルの日々を綴ってゆく」
(2) 罪と罰 その3
張り込みの合い間を縫って、俺は蓮子のこれまでの足取りを探ってみた。
蓮子は地元の高校を卒業後、介護の専門学校へと進んだ。卒業後は地元に近い施設で介護師として勤めていたようだ。一度結婚もしている。同じ施設に務める3歳上の介護師とくっついたようだ。2015年6月、25歳の時だ。しかし、結婚生活は永く続かなかった。2年後、2017年の冬には離婚している。子供はいない。そのあとすぐに蓮子は単身H道へ移り住み、△△市でやはり介護の職についた。その頃大和田源はすでに出所していて、ここ△△市で夜の仕事を始めて数年が経っている頃だ。
お互いが示し合わせて、ここ△△市で再会したのだろうか?
いや、それはまずないだろう。
俺の想像だが、おそらく蓮子は大和田への復讐を目論んで接触を図ろうとしたのではないのだろうか……。
蓮子が勤めていた施設にも足を運んでみたが、去年の秋口から突然来なくなり、音信不通の状態だそうだ。住んでいたアパートはすでに引き払われており、現在の住まいは不明だった。たぶん、そのあとは大和田源のところへ転がり込んだのだろう……。
岡林は、もう源はすでに生きていないだろうと予告した。
あの親父が言うのだからきっとそうなのかも知れない。まさか蓮子が源を殺したのだろうか? だとしたら何故、源の行方を捜してくれなどと探偵事務所に頼む必要があるのだ。源は何者かに消されたのだろうか? もしかして主犯格だった大島玲人に?
だが、大島玲人はすでに出所後、恐喝事件を起こして現在服役中だった。
蓮子は大和田源と心が入れ替わったと言った。本気なのか嘘なのか。それすらも俺には、どっちなのかを見極めることができない。
そして蓮子はどこに? 源は? 生きていようと死んでいようと、何処にいるんだ。
不可解なことが多過ぎる事件だった。果たしてこんな俺に解明できるのだろうか? 全くもって自信などなかった。
ふと、俺はミウラに会いたくなった。彼を呼び出して一杯引っ掛けようと思った。あいつならいい知恵を出してくれるのではないかと、よこしまな気持ちもあった。
彼は快く呼び出しに応じた。とある居酒屋で待ちあわせることになった。
久しぶりに会うミウラに、今現在の俺の仕事や、チャンゴとのことなどをかいつまんで話した。
「そうか……ワイの知らぬ間にずいぶんと狂さん、波乱万丈な日々を。相変わらず女難の相がくっきりと出てまっせ」
「うん。そこは否定できないな」
久しぶりの祝杯を何度も交わしながら俺は相談に乗ってもらうことにした。
「とにかくさ、今話した通り。蓮子と源、この二人の関係っていったいどういうモノなんだろうね」
「ふむ。ワイが思うには男と女の愛憎関係っちゅう感じなのかなぁ……」
「え? どういうこと」
「つまりアレだ。蓮子っちゅう女は源に好意を抱いてしまったんよ、きっと。女として目覚めてしまったんかなあ。んでも、誰よりも強い憎しみも抱いているだろうね。そりゃ当然そうだよな。最愛の姉ちゃんが殺されるは幼い自分を凌辱した男なんだから……そのジレンマが蓮子をおかしくしてしまったのとちゃうのかな……」
なかなか鋭いと思った。確かにミウラが言わんとしていることは良くわかった。だが、それだけじゃつじつまが合わないとも思う。
「じゃあいったい蓮子は、つまり、何がしたいんだろうね」
「何もないさ。ただ、忘れ去られたくないんだと思うな。自分も姉ちゃんも、関わった半グレどもも含めて……事件を全部」
何だかぐっときた。ミウラに話を聞いてもらったのは良かったと思った。
くれぐれも他言しないように釘をさして俺たちは別れた。今度は絶対にチャンゴやゆい吉先生とも飲もうと約束を交わした。
そして、おそらく蓮子を助けるには、すでにリミットが迫っているのではないかと感じた。なんとなく、第六感が騒ぐのだ。
俺は大和田源のアパートへと急いだ。
続く
(※この物語はすべてフィクション? として書いています)




