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逃亡馬券生活   作者: 狂死狼
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第5章  夜に舞う華 10

「俺は殺人者だ。行方をくらませ裏街道を歩き、人目を避けて生きるしかない。投資馬券が唯一の生活の糧だ。共犯者優香とのあらたなるサバイバルの日々を綴ってゆく」



(2) 罪と罰  その2


 蓮子は、かつての女子高生コンクリート詰め殺人事件被害者中田有希子の「妹」だった。

 一連の事件の裁判記録をひも解くと、当時10歳の中田蓮子を加害者の大和田源は姉の事件とは全く別に故意に連れ出し、性的な目的で監禁して関係を迫ったのだとある。どこまでが真実なのかは今となっては判断しにくいが、そのためにただの連絡係に過ぎない彼が実刑判決を受けるに至ったのだとも見える。そして彼は控訴をせず、一審判決の実刑を受け入れた。

 こうして妹の蓮子との関係性は裁判記録から明らかとなった……。


 なんてことだ。あの二人の間にこれほどの因縁めいた関係があったとは……。俺はしばらく言葉を失った。……ということは、蓮子は全てを知った上で源に近づいたのに違いない。では、それを知った源の、失踪の意味とは?

とにかく、蓮子に会わなければならない。会ってもう一度話を聞くべきだ。

 だが、蓮子の携帯電話はもう待ち受けの状態にはなかった。電源が入っていないか、使われていないとのアナウンスが流れるだけだった。

 俺は大和田源のアパートへと向かった。


 H道△△市は3月の初めだというのに、例年よりもはるかに暖かな気温を維持し、その街並みはすっかり春の装いとなっていた。強烈な寒波におののいた2月初めの気温が嘘のように感じられる。だからといって桜の季節はまだまだ先の話しだ。桜の花が満開になるのは例年だと5月の初め。まだ2カ月も先の話しだ。


 蓮子のアパートのドアを叩いてみたが反応はなかった。

 その日から、蓮子の足取りは途絶えてしまった。

 いきなり俺のようなド新人が扱うには、どうにも複雑怪奇で重すぎる案件だ。俺は岡林所長にこれまでの経緯を説明し、この事件からは手を引くように頼んだ。

「ああん? まだ始まったばかりじゃないか。寝言は寝てから言えよ。二人があの事件の関係者で、被害者と加害者だったってえ? 面白えじゃねえか。俺だったらどんなに頼まれても手を引こうなんて思わねえな。最後まで突き止めてやろうって燃えるけどな」

 岡林は煙草をふかしながら資料に目を通して言った。

「しかし……蓮子という女の行方も、源の行方も皆目わからないのにどうやって調査を進めればいいのですか?」

「そうだな。いまのところ確かな手掛かりは源のアパートだ。蓮子が帰ってくるまで、徹底して見張ることだな」

 ぐっ。わかってはいるが、そんな地味でいつ終わるとも知れない不毛な調査は苦手だった。


『岡林探偵マニュアル第3条 

相手をよく観察せよ。身を隠し息をひそめて気配を殺し、一点に集中せよ』


「嫌ならヨ、他の奴に頼むゼ。陳さんなんか適任かもな。あいつはなにせしぶといから」

「あ、嫌。すみません、自分がやります」それはさすがに譲れなかった。

 岡林は俺の顔をじろりと睨んだ。

「だったら、はじめから愚痴なんぞ言ってんじゃねえ」

「は、はい」

 蛇に睨まれた雨蛙のようだった。

「いいか、俺が思うにたぶん源はもう、生きてはいないだろう。あの女の動向を徹底的に監視しろ。くれぐれも同情や憐れみで近づくんじゃねえぞ!」

「え……あ、ハイ。わかりましたァ!」

 源はもう生きていないだろうって? なぜわかるんだ。じゃあ、二人の『心の入れ替わり』はいったいどうなるんだ。死んだ人間と入れ替わったとでもいうのか。もしそうなら一生、蓮子はあのままだというのか?


 とにかく、全てを解明せずにはもう気が済まない。新入りのこんな俺でも探偵魂が宿ったと見える。気が進まない張りこみを、それから1週間ほど続けることになった。




               続く




(※この物語はすべてフィクション? として書いています) 

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