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逃亡馬券生活   作者: 狂死狼
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第5章  夜に舞う華 8

「俺は殺人者だ。行方をくらませ裏街道を歩き、人目を避けて生きるしかない。投資馬券が唯一の生活の糧だ。共犯者優香とのあらたなるサバイバルの日々を綴ってゆく」




(1) 謎の女  その8



明らかにマスターの眼つきが変わった。それは、敵を射抜くかのような鋭い眼だった。

「ちゃーりーさんはお休みですネ。ハイ。でも、どうしてうちのスタッフをご存じなんですか?」

静かな口調で表情すら変えないものの、警戒を色濃くしていることは肌で感じられた。

「友達情報ですよ。このお店のこともね」蓮子情報なのか、本人情報なのかは定かではないが、とにかくそういうことにした。

「……残念ですが。体調を崩してましてネ、しばらくは来れないみたいですよ」

「それは残念だ……ちゃーりーさんはここでは永いんですよね?」

 そう訊くと、コップを拭いていたマスターの手が止まった。

「ええ。まあ、永いですネ。それが何か?」

「確か、千葉の方の出身だとか」

 マスターはコップを静かに置いた。俺をあからさまに睨みつけながら言った。

「マスコミかなんかですか? あのネ。もうあいつはあの事件とは一切関係ないんだよ。まっとうな人間になってすっかり生まれ変わってやってるんですよ。いい加減、これ以上詮索するするというのなら……出て行け!!」そう言うなり、マスターは俺のコップを取り上げた。「代金はけっこうだ!」

 俺は一瞬固まったが、しばし間を置いてから口を開いた。

「俺はある人に頼まれて彼を探していて……まあいいや。解りましたよ。そこまで言うのなら出て行きますよ。ただ、ひとつだけ教えてもらっていいですか」

 俺の勢いに押されてマスターも少したじろいだ風に見えた。

「な、なんですか?」

「彼はこの店で、片づけや掃除はちゃんとやる方でしたか?」

「ああ。あいつは一番きれい好きだったよ。店の隅々まできちんと掃除を欠かさなかったよ。それがなにか?」

「いえ、それだけお聞きできればけっこうです」

そう言って俺は席を立った。財布から3000円を取り出してカウンターに置いた。1杯だけの値段には事足りるだろう。

 コートを羽織り、俺は『乱なウエイ』を出た。

やはり、あの女の狂言なのだろう。きれい好きの源とはまるで違うあの女なのだ。

 外は雪は止んでいたものの、凍えるような寒さが身にしみてきた。


「ざっとまあ、こんな感じ」

 アパートの部屋の中、俺は優香を相手にビールを飲み、今日までの調査の報告をした。もう午前2時を回っている。そろそろ寝なければ……。

「えっと、その源さんって人はどこにも姿を現してないの?」

「今のところはな。どこに行ってしまったんだか」

「昔、なにか事件を起こしたのかしらね」

「うん、『乱なウエイ』のマスターが言ってたな。明日はその辺を調べてみるよ」

「だけど……その蓮子さんてひと、可哀そうね」

「そうかな。なんだか楽しそうにやってるよ」

「それは……本当にそうかな」

「まあ、今は中身が『大和田源』だけどな」

「……よく解らないけど、深い心の奥底に、なにかがありそう」

「へえ? いったい何があるってんだよ。痴話げんかのなれの果て、ちょっとオカルトぽいけど、きっと裏があるんだろうよ」

「うーん。まあ頑張って!」

「任せとけって」

 俺はこの案件をかなり楽観視していた。この時までは。

 大した事件だとも思っていなかった……入れ替わりがどうとかいうのも、あの女の悪ふざけか男からの強制じゃないだろうかと疑っていた。

 だが、調べて行くにつれ、大変なことが明らかになっていった……。



               続く



(※この物語はすべてフィクション? として書いています) 

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