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逃亡馬券生活   作者: 狂死狼
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第4章  凍りつく街 37

「俺は殺人者だ。行方をくらませ裏街道を歩き、人目を避けて生きるしかない。投資馬券が唯一の生活の糧だ。共犯者優香とのあらたなるサバイバルの日々を綴ってゆく」

(6) 決壊  その3



 岡林探偵事務所を訪ねた後、俺はやはりあのマンションへと足を運んだ。なんと言われようと、あの男の正体を突き止めなければ気が済まなかった。

 とはいっても、探偵のあの方々が張り付いているといるとわかった以上、あからさまにこの身をさらす訳にはいかなかった。

 俺はマンションにほど近い商業施設の屋上駐車場から様子を窺って見ることにした。

 1時間ほど経過したが、特に怪しい動きは何ひとつなかった。監視しているであろう岡林たちの姿を見つけることも出来なかった。

 寒さに閉口して諦めかけたその時だ。マンションの入り口付近をうろうろする若い男を見つけた。

 あ。チャンゴだ!

 俺は急いで屋上から降りてマンションへと向かった。

 だが、向かった先にはもう奴の姿はどこにもなかった。

 あいつめ。こんなところに現れるとは……おそらく轢き逃げ犯の居場所をほぼ特定出来たということなのだろう……恐ろしい執念を感じた。尋常ではない嗅覚によってここまでたどり着いたのだ。奴のカオリを想う気持ちは相当なものだと感じる。

 探偵事務所の奴らに見つからないよう注意を払いながら、俺もその日はマンションを後にした。

 通りは凍てつく寒さだった。こんな日に屋外で誰かを監視するような仕事というのは、いくら生業とはいえ我慢出来るものだろうか。こんな日であっても道路工事や除雪、排雪作業なんかで屋外に立ち交通整理をする警備員もいる。大した日給だってもらえやしないだろう。けれど生きるとはそういうことだ。我が身を望まぬ状況にさらしてこそ、生きる糧が得られるのだ。

 当たり前のことを、当たり前ではない状況になって初めて気づくものだ……。

 寒さがよけいに身にしみてきた。

 さあ、どうやってあのマンションに近づき轢き逃げ犯を特定すればいいのか。俺は相当な焦りを感じていた。チャンゴや岡林たちにも気付かれずに、できればあの男と接触を図りたかった。自首させるか、あるいは罪の意識を認めさせるまで俺なりの制裁を加えるか……と考えていた。すると俺自身はいったいどうなんだ? という考えに行きあたった。

 何をえらそうに他人に対して自首を勧めるというのか……。

 そんなことを考えながら雀荘が珍しく休みのその日、優香が作った夕食を食べながらぼんやりとテレビを眺めていた。

 ニュース映像に初老の男が映っていた。H道を地盤とする代議士、藤堂秀正という二世議員で外務大臣にまで上り詰めた男だ。この地では知らない者はいないという政治家だった。とある大企業との政治献金、癒着問題について疑惑をもたれているようだ。

「わたしは天地神明に誓ってやましいことなど何一つございません」と、冷や汗をかきながら釈明する記者会見だった。

 ふと、誰かに似ているなと感じた。誰だったろうか……目じゃない、口元でもない……顔の輪郭だ。誰かに酷似している……。

 あ、あいつだ。あの轢き逃げ犯だ!!

 俺は食べかけの夕食をそのままに大慌てでPCを起動し、あのマンションへ忍び込んだ時にスマホで撮った映像を開いた。すると24階にあった。2408号室に藤堂の名が……。



                続く





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