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逃亡馬券生活   作者: 狂死狼
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第2章 逃亡者の休息 4

「俺は殺人者だ。行方をくらませ裏街道を歩き、人目を避けて生きるしかない。投資馬券が唯一の生活の糧だ。生きるか死ぬか、あるいは捕まってしまうのか……究極のサバイバルの日々を綴ってゆく」

第6回


(3)  プラン


中島の歪んだ顔が俺をじっと見ている。

どす黒い粘っこいやつの血液が俺の体に降りかかる。俺はすでに体中が血の絵の具に塗り込められてしまい、文字通りの血だるまとなっていた。

「なぜ、俺を殺した。ええ? 俺にだって家族がいる。俺にだって多少の未来はあったんだ。確かに子猫を踏みつけにしたのは悪かった。クレームをつけて金を踏み倒したのも悪かった……だからと言って、なあ、殺すことはないだろう。ええ? 殺すことはないだろうが……殺すことは……殺すことは……殺すこ……」

鬼の形相となった中島が俺の首に手をゆっくちえお延ばし、締め上げてきた。

「うわあああ!!」

汗だくになっていた。

気がつくと俺は「イマジン・ハウス」の狭い個室の中にいた。

あまりにもリアルな夢に生きた心地がしなかった。

俺の叫び声に眠りを妨げられたのだろう、隣人が「どんッ」と壁を叩いてきやがった。

(すまん)

声なき謝罪を隣人にした。


 いくら逃げようとも、罪の意識が消える訳もない。俺は「殺人」という禁断の罪を犯してしまったのだ。

人として最後の一線を越えてしまった、どうしようもない愚かな存在だ。

とてつもなく苦しい。いっそのこと、自首して罪を償う方がはるかに楽だろう。

だが、どうしてもそれはできない。

 それは、死を選ぶことと同じだ。「殺人者」として公に顔と名前をさらすのならば、断然、俺は死を選びたい。けれど、死ぬことさえできないただの臆病者だ。間抜けだ。クズだ。まさしく社会のゴミだ。

フ。

 それがどうした。俺は生きてやる。この世界の片隅で、裏街道で生きてやる……死んだ奴のことなど、糞くらえだ!!


 生き抜くためのプランを練る必要がある。競馬で稼ぐ目標はそれとしてだ、生活を成り立たせる基盤がどうしても必要だ。どうする? 今、行動するのは危険が付きまとう。ぎりぎりまで切り詰めて、頃合いを見て仕事を探すか……。だが、厳しいだろう。俺のような素性の知れぬ者を雇う企業などあるだろうか?

 まあいい、おいおい考えていこう。案外、俺は楽天的な性格だ。まだ少しは考える時間と余地はある。


 あの事件の後、俺は走り続け、途中、△○川に向かって包丁を投げ捨てた。急いで4畳半一間のアパート戻ると、最低限必要なモノだけを持ち出した。バッグに着替え、小型のPCと通帳、カード、筆記用具、印鑑を詰め込んだ。

そして、いつ終わるともしれない、果てしない逃亡生活が始まったのだ。


不毛な縄張り争いと喧騒が尽きることのないパラダイスの休憩ルームを今日は敬遠し、俺はふと、この街で一番大きな図書館へ足を伸ばしてみようと思い立った。C区にあるC図書館だ。

△△市は今日も気持ちの良い青空が広がっていた。


路面電車に乗ってたどり着いたC図書館はさすがに大きかった。中にはものすごい量の蔵書が並んでいて、読書ルームも広々としている。本棚にずらりと並ぶ背表紙を眺めているだけでも、あっという間に時間が過ぎてゆく。


(※ 図書館画像)


俺はその中から2冊の古いミステリー小説を選び出した。

読書ルームはしでに半分ほどの席が埋まっていた。座っている者たちは、いずれも静かに読書や書きものに専念している。咳ばらいひとつ聞こえてはこない。驚くほどに静かな空間だ。パラダイスの休憩ルームとは大違いだ。

さっそく空いてる席を見つけ、俺は本を広げた。ほどよい空調が効いていて、読み進むうちにだんだんと気持ちが良くなってきて、ふと、寝込んでしまっていた。

「狂死狼さん、狂死狼さんですよね」

誰かの声で目覚めた。気がつくと、読書ルームにはすでに誰もいない。窓の外もすかり暗くなっている。

かなりの時間、俺は寝込んでしまっていたようだ。俺の横には、俺の顔を覗き込むように語りかける美しい顔立ちの女が立っていた。


「私を覚えていますか? ほら、以前お世話になりました。中島カオリです」

「え…………」

(中島……カオリ??)

 俺の心臓がどくんと跳ねあがった!


                            続く



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