第4章 凍りつく街 11
「俺は殺人者だ。行方をくらませ裏街道を歩き、人目を避けて生きるしかない。投資馬券が唯一の生活の糧だ。共犯者優香とのあらたなるサバイバルの日々を綴ってゆく」
(2) 追跡者 その4
「何か証拠でもあるのか?」
俺は恐る恐る、だけどそれと悟られないようにあくまでも平然とした口調で訊いた。当然ながら心臓は大きく脈打っている。
「いや。まだ物的証拠、目撃証言も一切ないんだ。ただ事件の後、突然姿を消した人物であり、過去に被害者中島氏と接点があったということだけだ。もちろんこれも企業秘密な」
そこまで調べがついているのか。さすが日本の警察だ。優秀なものだ。それにしても……俺はシンちゃんの気遣いを感じていた。こんなことを、俺に話したってばれたらクビだろうに。
いや待て。もしかしたら……キャバクラやソープでのあの醜態は、俺への警告だ。そして敵ではないことを、俺に弱みを見せることで教えているのではないか?
そうだ。きっとそうなのだ。……シンちゃんもややこしい職業につき、ややこしい大人になったものだ。でも、そのおかげで俺は情報が手に入り、身を守るための準備ができる。きっと、そういうことなのだろう。そうじゃなければ事情聴取でも参考人でも、とっくに引っ張られているはずだ。
「ずいぶんと安い企業秘密なんだな」
「俺と狂ちゃんの仲だろ。中学ん時さ、いじめられてた俺をいつも助けてくれた」
そうだ。そんなこともあった。今のシンちゃんの貫禄からは想像もつかない話だ。かつてのシンちゃんは、かぼそくて弱々しかった。
「狂ちゃんには、間違っても殺人犯になって欲しくないんだ」
「何言ってんだよ。そんなことしてないって」
「そうだろうよ。だからさ……気をつけてくれ」
含みを持ったにやけた顔を俺に見せた。それからシンちゃんは煙草を取り出し、ゆっくりと口に咥えて火をつけた。
深く吸い込み、ふうっと煙を吐いてすぐに火をもみ消した。
「ずいぶん勿体ない吸い方」
「本当は吸っちゃいけないんだ。俺、肺をやられてさ……げほっごほっ」
言ったとたんの激しい咳込みだった。
取り出したハンカチで口を拭うと真っ赤な血が染み込んでいた。
「おい、煙草なんかやめろよ」
「ゴホッ。いいんだ……俺さ、永くないんだ」
「ええ?」絶句した……。「病院へは? なんで仕事なんかしてるんだよ。何考えてんだ」
「もう見放されてるから。確かに体きついんだ。だからって、布団に寝転んで一生を終えたくはない。その前に、親友の濡れ衣を晴らさなきゃな」
シンちゃんの目は、俺を確実に捕らえて何かを訴えてくるかのようだった。
「濡れ衣も何も、心配いらんて。実際、何もしてないんだから。
「わかってるさ……わかってる。じゃあ、そろそろ行こう」
店を出ると、心の底まで凍りつかせるような冷たい寒気にさらされた。シンちゃんはよれよれのコートの襟を立て、ぶるっと身震いをした。
「さあ行こう」
「今度はどこに?」
「決まってるさ。狂ちゃんの寝床『イマジン・ハウス』さ。経費を使い過ぎたからさ、もう宿泊代は出ないんだ。俺もそこに泊まるよ」
俺たちはタクシーに乗り込んで『イマジン・ハウス』に向かった。少しほっとした。シンちゃんの真意まではわからないが、概ね俺を心配し庇うつもりのようだ。間違いなく味方といえるだろう。そしてまだ優香とのことは気づかれていないようだ……カオリの事件にもふれることはなかった。いかに優秀な日本の警察でも、複雑すぎる俺の女難の相にはかなわなかったようだ。
『イマジン・ハウス』ではミウラも交えて、静かな宴会を狭い個室で始めた。
チャンゴがこの場にいないことが少しさびしかった。
さて、今日1月14日(月)は中央競馬三日開催の最終日、中山第9レースに勝負を挑んだ!!
しかし、いいところなしの不適中だ……
なかなか波に乗れないままに俺の投資競馬は一進一退を続けている。何か手を打つ必要があるかもしれない……ともかく、明日の船橋競馬に期待しよう。
明日の買い目はこれだ!!
船橋第7レース 3連複軸1頭ながし
⑩→3、4、6、9、11 (10点)
船橋第11レース3連複軸1頭流し
⑧→3、4、5、7、14 (10点)
(※オッズ15倍未満は切り捨て)
南関競馬総投資資金 371,270円
371,270円÷36÷10≒1,000円
1点=1,000円の勝負だ!!
では、また。




