第4章 凍りつく街 7
「俺は殺人者だ。行方をくらませ裏街道を歩き、人目を避けて生きるしかない。投資馬券が唯一の生活の糧だ。共犯者優香とのあらたなるサバイバルの日々を綴ってゆく」
(1) 友よ その7
これも『女難』の一種なのだろうか?
俺はあられもない姿のまま、ゆい吉先生に引きずられるように繁華街を歩いた。火が出るほど恥ずかしかったために寒さはあまり感じなかった。
街をゆく者全員が好奇な視線を俺たちに向けてきた。にやにやと笑いだす者、引き攣った顔になる者、目をそむける者、羨望のまなざしを向ける者……ありとあらゆる感情が俺たちに向けられている。
「どうですか? 気持ちいいでしょう」ゆい吉先生は軽やかな身振りで振り返り、俺に言った。
「はあ……いや、とても自分には……こんなのって」
「フフフ。もうそろそろ慣れますよ。きっと、思いもよらない快感に震えるんじゃないかな」
「えええ?」
「本当に嫌だったらね、とっくにあの店から逃げ出していますよ。ここまで付き合った狂死狼君には間違いなく才能が眠っている」
「いや、その……何の才能ですか?」
「免疫力増強の特殊能力ですよ」
「??……」
「では、もうひとつ付き合ってください。謝礼は出しますから」
そういってゆい吉先生と俺はタクシーに乗り込んだ。ルームミラーで俺たちを見たいかつい運転手が言った。
「ああ。いいですねェ。実は俺もそっちの方なんですよ」
「そうですか。じゃあ今度ご一緒しましょう」ゆい吉先生が言った。
運転手はよろしくお願いしやすと含み笑いをした。俺はそのやり取りを聞いて心底、怖しくなった。
「今度はどこへ行くんですか?」
「運転手さん、△△医大まで」
え? これから医大だって?
タクシーは暴走気味に医大までの道のりを走りだした。
「出江丈夫と申します。ここでしがない教授をやっとります。これはまた気合いが入っておりますな……」
ゆい吉先生に紹介された出江教授はおっとりとした恰幅の良い紳士だった。俺たちの姿を見て感心したように言った。
病院のロビーを通る時は人気が少ない時間帯とはいえ、死ぬほど恥ずかしかった。繁華街を歩く方がまだマシに思えた。俺はカオリや優香にだけは絶対に見られたくないと、心から思った。
ゆい吉先生は真剣そのものだった。ただ、股間がもっこりのバニースタイルなだけに真剣さが伝わりにくかった。
「出江教授、どうですか?」
「うむ。Tリンパ球が著しく増えておる。これはすごい免疫力の向上だ。特に狂死狼君の方は常人の10倍ほどに……」
「やはり相乗効果が見込めるという訳ですね」
なんだろうこの人たちは。怪しげな格好のまま顕微鏡を覗いているゆい吉先生、全く意に介さず資料を見くらべて真剣な出江教授。
俺には想像もできない世界にいる人たちだ。
「そろそろ、Cコースの時間が迫ってきた。狂死狼君、ありがとう。また頼むよ」
「は、はあ?」
帰りのタクシーでゆい吉先生はぽつりと言った。
「私の息子がね、18になるんだけどね。厳しい状況なんだ。もう免疫療法に頼るしかないんだよ。息子を助けるためなら私はどんなことでもする。女装も競馬も全てそのためなんだ。免疫力向上に関わるかもしれない物はなんでも試したいんだ……」
ゆい吉先生の目から、きらりと光るものが落ちた。
続く
では、少々競馬の話しでも……続きです。
ようやく2年前に養育費が終わり、それまでの仕事を思い切って辞めることにしました。社長や役員とのそりが合わなかったことが原因です。そして1年だけ頑張って小説を書いてみようと考えました。夢よもう一度です。
失業手当をもらいながら毎日毎日小説を書き、書いては応募、また書いては応募を繰り返しました。だが、簡単に入賞などできませんでした。1年と決めた期限も迫ってきた頃、いったいこれからどうしようかという不安がよぎり、眠れない日々が続きました。
そんな時ふと、あることが閃き、この方法なら競馬で食っていけるんじゃないかと思ったのです。
それからは検証、検証の毎日。取りあえず知りあいに紹介してもらった仕事にも就き、休日と帰ってからの時間、とにかく寝食を忘れて過去4年間のデーターを毎日毎日1レースずつ検証していきました。小説を書くこともせずに。
集計してゆく中で、その考えは確信へと変わっていきました。
いよいよ実際の投資を始めようかと考えた頃、ある友人のアドバイスを得て、ブログで発表してはどうかということになりました。
そして『逃亡馬券生活』が生まれることになったのです。
今後いったいどうなっていくのか、自分にもまるでわかりません。とにかく出来る限りこのスタイルを続けていきたいと考えています。
全く新しい投資競馬と小説もついでに楽しんでいただけたら、幸いです。
では、また。




