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逃亡馬券生活   作者: 狂死狼
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第4章  凍りつく街 6

「俺は殺人者だ。行方をくらませ裏街道を歩き、人目を避けて生きるしかない。投資馬券が唯一の生活の糧だ。共犯者優香とのあらたなるサバイバルの日々を綴ってゆく」

(1)  友よ その6



『イノセントBAR・アフロディーテ』

 という、いかにも怪しげな店名のバーにゆい吉先生はすうっと入っていった。俺は少しためらったが、えいっと勇気を出してあとに続いた。

「いらしゃいま~せ!!」妙なイントネーションの甲高い声が響いた。

 店内は薄暗かった。シャレたジャズのナンバーが流れている。狭い感じの店だ。長めのカウンターにボックス席が5つ。カウンターに5人、ボックス席がふたつ埋まっていた。男ばかりだった。

 俺とゆい吉先生は空いているボックスに座った。

 ケバい化粧をした店員が注文を聞きにきた。

「ああら先生。お久しぶり。こちら新顔ね。今日はどちらのコースで?」

「うむ。まずは一杯いただこうか。ビールでいいかな狂死狼君」

「あ、はい。いただきます」

「じゃあ、あとは適当なつまみと、今日はCコースで」

「はい。Cコースですね。ではごゆっくり」

Cコースとはどんなコースだ? こんなバーに宴会みたいなセットコースがあるというのか?

 俺は少し不安になったが、ゆい吉先生に従うほかなかった。

「プラシーボ効果というのはねえ、さっきも言ったようになかなか侮れない、もしかすると人類の救世主ともなりかねない素晴らしい可能性を秘めていてね……」

 先生が引き続き話す内容は面白かった。俺はだんだんとそのプラシーボとやらの可能性に興味を持ち始め引き込まれながらもきっと、ゆい吉先生は重い病を抱えていて、日々必死に戦っているのだろうと思った。

 そうに違いないと……だが。

「おっと、そろそろ時間だ。さあ行こう」ゆい吉先生が立ち上がると、店員が近づいてきて、さあどうぞと俺たちを店の奥の方へ促した。

 バーの奥のドアを開けるとそこには、急な階段が現れた。先生と俺はゆっくりと下りていった。すると、そこにはかなり広いフロアが広がっていた。両脇には狭い1畳ほどの個室がいくつも並んでいて、正面にはずらりとまばゆいほどの派手な衣装がたくさんぶら下がっていた。

「さあ狂死狼君。どれでも好きな衣装を選んで控室で着替えてください。化粧道具もだいたい揃っているから、好きなようにメイクしていいですよ」

 え? この人は何を言ってるんだ?

 ぶら下がっている衣装はどれも短いスカートや際どいレオタード、ドレス、短い着物、セーラー服といった今時ピンキャバくらいでしか需要のないようなモノばかりだった。

「これは……いったい?」

 俺はあんぐりと口を開け、唖然とするばかりだ。

「狂死狼君、今こそ自分の中の見えない足かせを取り除くのです! そして全てを解放するのですよ。そうすることで、プラシーボ効果は劇的に力を発揮するはずなのです」

「え。えええ?」

 何が何だか分からないままに俺はゆい吉先生のご指導のもと、派手な化粧を施し短いスカートのセーラー服を身にまとうこととなった。先生はさらにド派手な化粧を塗りたくり、際どいレオタードを身にまとって股間が今にもはちきれそうだった。

 その上に毛皮を着込み「さあ、いざ出陣!!」とおたけびを上げた。

 俺は自分の網タイツからはみ出すすね毛に気を取られたパニック状態のまま、丈の短いコートをゆい吉先生から羽織らされた。

「あの、こんな恰好でいったいどこへ? 外はかなり寒いんじゃないですか……」

「馬鹿もん!! 心頭滅却すれば火もまた涼し。さあ、このまま市街地を闊歩するぞ!!」

「え? はあ???」

 俺はこの人に誘われるままについて来たことを、今死ぬほど後悔していた。



              続く



 では、少々競馬の話しでも……さらに続きです。

 別れた家族に養育費を払い終わり(人並み以上に払ったと自負しています)自由の身となった僕はふと自分の人生を振り返り、このままではいかんと思うようになりました。

 競馬にのめり込んでいた頃、実はもうひとつ心血を注いで取り組んだモノがありました。それはシナリオ、小説の物語の世界です。面白い物語を作ることは自分の中の最後のアイデンティティだと、心のどこかで思っておりました。

 その頃はシナリオ教室に通ったり書いてはコンクールに応募するということを繰り返していました。

 いつか必ず物語の世界で身を立てたいと強く思っていたのです。しかし、いくつかのコンクールで最終候補にはなりましたが、その先はありませんでした。やっぱりいつも中途半端な人間です。いつしか、その夢も心折れて休止となりました。

 そしてようやく2年前に養育費が終わり……。

 

 では、また。



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