表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逃亡馬券生活   作者: 狂死狼
37/259

第4章  凍りつく街 4

「俺は殺人者だ。行方をくらませ裏街道を歩き、人目を避けて生きるしかない。投資馬券が唯一の生活の糧だ。共犯者優香とのあらたなるサバイバルの日々を綴ってゆく」

(1)  友よ その4


 カオリが眠る、優香が勤め始めて間もない病院は市街地の中にある。かなり大きな病院だった。雪が隙間なく街中を白く染めて降り積もる中、俺は病院の中へ入った。

 カオリの病室がどこなのかは優香に確認して知っていた。今は一般病棟の個室に移っているようだ。エレベーターを5階で止め俺は周囲に気を配った。廊下に人気がないことを確認してカオリの病室の前に立った。中の様子をうかがってみる。音は聞こえない。

 よし、今だ。

 ドアを開けると、カオリは人工呼吸器につながれた痛々しい姿でベッドに横たわっていた。枕もとの小さなテーブルには新しい花が生けられていた。

 「カオリ!」俺はカオリの手を握り締めた。細くしなやかだった手はさらに細くなり、力なくうなだれていた。温かい手だった。しかし、俺の声に反応することはなかった……。

 俺はほんの短い間のカオリとの生活を思い出した。こんなことになるんだったらもっと、もっと強く、深く愛してやればよかった。いや、俺だ。俺がこうなるべきだったんだ。カオリには何の罪もない。

 大罪を犯しているのは俺なのだから。

 俺はカオリの手を自分の頬に充てていつまでも温もりを感じていた。涙がこぼれ落ちた。

 病室のドアがすーっと開いた。

「あなた、誰?」

中年過ぎの女性が、不信感を露わにした顔で俺を見た。

「あ、すみません。カオリさんの友人で田中と申します」

 俺は咄嗟に偽名を使った。

「田中さん? お見舞いにいらしたんですか」

「ええ、そうです」

 カオリの母親のようだが不信感は全く拭えていなかった。

「娘とはどのようなお付き合いの方ですか?」

 どうもこうもない。真実を知れば卒倒することになるだろう。俺はあえて嘘でオブラートに包んだ。

「はい、前に図書館で一緒に働いてまして。2、3度、職場の人たちと飲み会に参加しただけですけど。事故のことを元同僚から聞きまして……」

 我ながらうまくごまかせた。一応、この時のために考えておいたサル芝居だ。

「嘘でしょう。カオリと同棲していた狂死狼さんなんでしょ!」

「えッ?」

 バレバレだった。そうか、カオリは包み隠さず全てを母親に話していたのか……いま初めて知った。

「す、すみません。カオリさんがまさかこんなことになるなんて、責任を感じています。申し訳ありません」

「それは……いいの。あなたのせいじゃありません。この娘に運がなかっただけ。父親と同じように……」

(うッ……)

 俺は言葉を失った。いや、本当にごめんなさい。あなたの夫の命を奪ったのは俺です。正確に言うと俺と優香です。申し訳ございません……心の中で俺は平身低頭だった。そえれにしてもかつて家のリフォームを担当したことは覚えていないようだ。カオリもそれは伏せていたのか。

「でもね……仕方ないのかもね。あの人は私の目から見ても好き勝手し放題で、誰からも恨まれてた。そんな人生……きっといつかは天罰が下るって。あ、ごめんなさい初対面のあなたに、こんなこと」

「あ、いえ。すみません。本当に何もお力になれず……」

 母親はカオリの顔を見つめてしばらく黙りこんだ。それから俺の顔を見て言った。

「ごめんね。この子はもう、たぶん無理だから。あなたはもう、ここへは来ない方がいいと思う。この娘のこんな姿を見られるのも、お互い悲しくて辛いから」

「そんな、そんなこと……」

 何も言い返せなかった。

 確かに、このままではお互いが不幸になるだけだろう。だが、もしも奇跡的にカオリが回復したとしたら、いったいどうなるだろう?

 優香の顔が頭に浮かぶ。俺はその時、いったいどちらを選ぶことになるのだろう? わからない……。ただひとつ言えることは。

 どちらであっても地獄だ……

 

 母親に深々と頭を下げて病室を出た。いたたまれない気持ちでいっぱいだった。

 廊下に出ると、ゆい吉先生が歩く姿が目に入った。

「あれ、狂死狼君。いいところで会ったね。ちょっと、これから付き合ってくれないかな?」

「はあ。なんですか?」

 その誘いは、俺を驚愕の事実へと引きずり込んだ……。


             

             ※



 さて、今週は南関競馬をお休みしたので、少々競馬の話しでも。

 競馬を始めたのは、ナリタブライアンが全盛の頃。武豊が人気絶頂でリーディングトップを常に走っていた頃のことでした。

 ある日の土曜日、職場の先輩がこれから今日のメインレース買うけど、どうだ、運試しに買ってみないか?

 もちろん、競馬というものは知っていたけど全く興味なし。成人過ぎても馬券など一度も買ったこともないウブな俺でした。その日、先輩にそそのかされて馬の名前や成績、強さ、調教、騎手、全く何もわからずにじゃあ、今日は24日だから枠連で2-4だ。1000円だけお願いします。そんな軽いノリで、きまぐれの運だめしを買ったのが運のつき。それがビギナーズラックもいいところで12倍くらいの的中となりました。

 そこからが人生を狂わすほど競馬にのめり込む、悪夢のような転落人生のきっかけになるとは……。今思い出してもほんと消え入りたくなるほど、切ない想い出ばかりです。



では、続きはまた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ