第3章 果てしない荒野 5
「俺は殺人者だ。行方をくらませ裏街道を歩き、人目を避けて生きるしかない。投資馬券が唯一の生活の糧だ。しかし共犯者だと言い張る女が現れ……困惑のサバイバルの日々を綴ってゆく」
(2) 穢れた絆 その2
この世の深い闇の底にある、穢れた絆だ。
俺はこれまで自分の身に起きた最悪の状況があまりにも現実とかけ離れている気がして、他人事のようなおかしさを感じながら振り返った。
まさか、自分が人を刺してしまうだなんて。魔が差したとしか言いようがない。しかもそれが本当は致命傷を与えられずに殺人までには至らなかったにもかかわらず、全くこれまで知らない関係のない女のために、俺は本当の殺人者ということになってしまった。知らずに共犯者されてしまったのだ。しかも、殺した男の娘をそうと知りながら愛してしまっていた。その女も今は意識不明の重体だ。
今、俺の顔には女難の相がくっきりと現れていることだろう。
優香は俺と一緒にどこまでも逃げようと言った。
はたして、この女の言うことを全部信じていいものだろうか。もしかしたら、全ての罪を俺になすりつけて自分だけが助かろうという腹ではないのか? そんなことは考えたくもないが、俺はすっかり疑心暗鬼となっていた。
「これであたしの話しはおしまい。今後どうするかはあなたが決めていいのよ。どうしても警察に全部話すというのなら、まあそれもいいかもね。でも、だったらこんなところまで逃げたりしてないよね。とっくに自首してるはず……」
そういった優香の目は、有無を言わせない厳しさを浮かべていた。
俺だって捕まりたくはない。今でもそれは死を意味することだった。
少し間をおいて、俺は切り出した。
「じゃあ、逃げよう、どこまでも。俺たちは共犯者だ。お互いの秘密は全部無しにしよう。いつだって心も体も全てをさらし出さなければ1秒たりとも一緒にはいられないさ。俺たちは深い闇を一生背負って生きていかなければならない」
「わかりました。そうします……」
優香は素直にそう言った。これまでの虚勢がぽろぽろと剥がれるように落ちていくのがわかった。
なぜか、急に思いがあふれてきた。今わかった。この女も犯した罪の重さと孤独に耐えられず、俺に近づいてきたのだろう。全てを俺の仕業にしてしまえば良かったはずだ。わざわざ俺に接触するのは今となってはただ危険なはずだ。それくらいの頭はまわる女だ。共犯者という名の、共感できる心のよりどころが欲しかったのだ。きっと、そういうことなのだ。
「ただ、カオリのことが気がかりだ。回復するのか、駄目なのか。そこは少し待ってくれないか」
「あの女は危険すぎる。もう近寄らないで」
優香の言葉ももっともだ。だが、クルマをぶつけたあの男を許す訳にはいかない。絶対に見つけ出してそれ相応の罰を受けてもらう。それだけはどんなに危険であろうがやり通すつもりだった。
いずれにしても俺たちの前には、どうしようもなく果てしない荒野が広がっていた。
さて、今日の最終大井競馬は残念ながら外れだ。
現段階では中央競馬馬連3点投資がトータルマイナス60,300円、南関競馬3連複投資がプラス5,270円とわずかなプラス収支となっているが、合計では55,030円のマイナスとなっており、お世辞にも成功とは言えない状況だ。ただし、短期間で判断できる類投資ではないのでこれからも続けてゆくのみだ。
俺の馬券予想法は当日得られる情報(パドック、馬体重、返し馬、馬場状態、騎手の乗り替わり、斤量など)はすべて無視している。それで果たして年間プラスを維持できるかどうかが焦点だと思っている。
超競馬の馬連3点の投資を初め主軸にしていたが、途中から南関競馬の3連複パターンを加えることにした。実はどちらも同じ予想法によって導き出している買い目だ。
予想法のヒントは眠狂四郎の『円月殺法』? だということも付け加えておく。
では、良い年を迎えてくれ。俺はイマジンハウスで年を越そうと思う。
続く




