第2章 逃亡者の休息 1
「俺は殺人者だ。行方をくらませ裏街道を歩き、人目を避けて生きるしかない。投資馬券が唯一の生活の糧だ。生きるか死ぬか、あるいは捕まってしまうのか……究極のサバイバルの日々を綴ってゆく」
第3回
(1) メッセージ
競馬前日だ。
本来ならば、友の死を目の当たりにして賭けごとなどやれるような精神状態にはない。俺にしてみれば、途方にくれるとはこのことだ……。だが、ただ呆けていたところで、それは奴の望むところではないだろう。俺は俺の道を全うする。
あの日、俺は現場から一目散に逃げた。あの状況では万にひとつも助かりっこない。だとしたら、現場に残るのは得策ではない。追いかけていたあのふたり組も、あわてて踵を返して逃げ去った。
しゃもんの最後のギャンブルは果たして勝ったのだろうか。それとも負けだろうか? おそらく保険金で奴が残した借金は支払えることだろう。本人が亡くなったのだから、支払う義務があるかどうかは俺には分からないが……。
死んでしまっては元も子もない……けれど奴にとっては、ある意味勝利なのではないだろうか。どうせ死ななきゃ治らない病気だ。あの世では完治していることだろう。
そして俺は「ネバーランド」を去った。
今、あの場所は危険すぎる。警察は不審な死を遂げたしゃもんの足取りをたどるだろうし、盗難事件についても、当局の捜査の手が伸びる危険性は充分にあった。
俺は昨日からネットカフェ「イマジン・ハウス」に寝床を移した。
唐突だが、明日の買い目だ。
12月1日(土) JRA 中京競馬
第8レース 馬連3点
5-9 2-9 3-9
(総投資資金355,470円÷36÷3≒3,200円)
1点=3,200円の勝負だ!!!
慣れない新しい寝床「イマジン・ハウス」の座椅子はどうも寝心地が悪かった。どんな姿勢を取っても背中が痛くなる。
俺は、友への追悼、そして競馬の勝利の前祝いとして、今日は缶ビールをたくさん買い込んだ。すでにほとんどが空になっていた。
横になって、俺は生活費用の財布の中の金を数えてみた。使った分は全部把握している。はじめに36万5849円あった金はすでに半分以上が無くなっている。大丈夫だ。計算はあってる。
「あれ、なんだこれ?」
財布の中に妙なものが混じっていた。
見ると、馬券……だった。単勝・複勝100円の、今はやりの応援馬券だ。
がんばれキョウシロウ?
馬名が「キョウシロウ」になっている。だが、良く見ると、字が微妙に曲がっていてすぐに偽造馬券だとわかる。ありえない偽造馬券が財布の中にまじっていた。俺はしゃもんのしわざだと気付いた。
あいつ、やっぱり「悪さ」をしていたのか?
けれど、金を盗られた形跡はない……なんだ、あの野郎。
馬券を裏返して見ると、そこには
「ありがとう。でも、ごめん」
とだけ、赤いマジックペンで書いてあった。
俺はなんだか目頭が熱くなった。
「あんまり笑わせるなよ。くそ……」
しばらく偽造馬券を握りしめ、座椅子に埋もれて……ひとしきり泣いた。
続く
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