第2章 逃亡者の休息 25
「俺は殺人者だ。行方をくらませ裏街道を歩き、人目を避けて生きるしかない。投資馬券が唯一の生活の糧だ。神のいたずらなのか、いつの間にか殺した男の娘と暮らす羽目に……究極のサバイバルの日々を綴ってゆく」
きよくもないこの夜 その8
「カオリ、大丈夫か、おいカオリぃぃ」
いくら呼びかけても反応はなかった。外傷はさほどでもないようだが、頭を強打したようだ。右腕と左足の骨が折れているかもしれない。有り得ない方向に曲がっている。
(とにかく、救急車だ。119番だ!!)
俺はうずくまるカオリを抱きかかえながら、スマホで救急車を呼んだ。
何とか状況を説明し、すぐにも緊急車両を寄こすよう頼んだが、何分にもクリスマスイブの夜だ。到着までは20分ほどかかると言われた。現場を離れないで待つように指示された。
「くそったれが。一秒でも早く来いや」俺は心の中で毒づいた。
間違いなく警察へも連絡がいくだろう。かといって、この場を離れることはできない。警察だってまさか、事故に遭った娘を助けようとしている男が父親を殺した犯人だとは思いもしないだろう……きっと大丈夫だ。
(あわてるな)
きっと何とかなる……いやこの際、俺なんか捕まってしまった方がいいに決まってる。その方がはるかに楽だ。そうなったらその時はその時だ……。
だけど、くそっ、あの野郎。酷過ぎる。あの時、ファミレスであそこまで奴を追い詰めたのは失敗だった。まさかこんな暴挙にでるとは……あいつだけは絶対に許さない。絶対に思い知らせてやる。それまでは……たとえ捕まったとしても死ぬ訳にいかない、死ぬ訳にはいかないんだ。絶対に見つけ出してやる!!
雪がみるみるうちに降り積もり、俺とカオリの身体には容赦ないほどに冷たい雪が、ずっしりとのしかかっていった。
救急車の中で、俺はカオリのそばについて手を握りしめた。意識のないカオリがかすかに俺の手を握り返した。
救急病院に搬送されると、すぐに緊急手術が行われた。俺は途方に暮れたように待合室でただ祈っていた。
やがて警察がやってきて、あれこれと事故の経緯を探るような目で訊いてきた。俺とカオリの関係については特に疑うような眼つきだった。俺は、適当にはいはいと答えるだけで精一杯だった。詳しいことはまた後で事情聴取をするそうだ。勝手にしろ。そんなことはいいから、クルマをぶつけてきたあいつを早く掴まえてくれよ。早く見つけてすぐ死刑にしてくれよ……頼むよ。
そして夜が明けた。最悪のクリスマスイブだった。
いつしか俺は眠りかけていた。待合室の固い椅子に腰かけて腕を組み、首を何度もうなだれて舟を漕いでいた。
窓の外が白々と明け始めた頃、看護師の若い女が俺に声をかけてきた。
「済みません。えっと、中島カオリさんの手術は無事終わりました」
「あ、そうでしたか。あ、ありがとうございます」
(え? この女。どこかで見たような……いや、見覚えはない。それにしても、なぜカオリの名前をフルネームで知ってるんだ?)
「あなたは狂死狼さん、ですよね?」
「あ、はい……そうですけど」
(ええ? なぜ俺の名前まで。まてよ、こいつ、警察に訊いたのか?)
「あの、ぶしつけなことを聞きますけど、被害者のカオリさんとは、いったいどういった関係なのですか?」
「はああ……なんでそんなことを?」
とにかくおかしな女だった。だが、さらに突拍子もないことを言いだしたものだから俺は腰を抜かしそうになった。
「すみません。あなたは私の共犯者ですから……あの、中島さん殺しの……」
「ええ? はあ……???」
開いた口がしばらくふさがらなかった。
何がいったいどうなっているんだ……
さて今日12月25日の投資競馬を報告しよう。
南関大井競馬でようやく当たりが来た。三連複800円×22.9倍だ。もちろん、負けを取り戻すにも全然足りていない。今後連続当たりか大きな配当を射止めるしかない。まだまだこれからだ。
そして明日12月26日の南関競馬、買い目はこれだ。
3点に絞っているのはもちろん理由があってのことであり、適当に運だめしで決めている訳ではない。その辺はおいおいと、話せる部分は話していこうと思う。
浦和 第5レース 三連複 ④→1、7、10
大井 第9レース 三連複 ①→2、6、8
それぞれ3点(15倍以下はオッズ切り)
南関総投資資金 327,110円÷36÷10≒900円 1点=900円の勝負だ。
このまま好調を維持したいところではある。
続く




