第2章 逃亡者の休息 24
「俺は殺人者だ。行方をくらませ裏街道を歩き、人目を避けて生きるしかない。投資馬券が唯一の生活の糧だ。神のいたずらなのか、いつの間にか殺した男の娘と暮らす羽目に……究極のサバイバルの日々を綴ってゆく」
第2章 逃亡者の休息
きよくもないこの夜 その7
クリスマスイブの夜、俺たちはイタリア料理のレストランを予約していた。
満席のレストランに座るのはほとんどがカップルだった。食べきれないほどの料理を注文し、ワインを飲んだ。カオリはいつになく着飾っていて、ろうそくの淡い炎に照らされた綺麗な顔に俺はみとれていた。
料理はかなり残してしまったが、ゆっくりグラスを傾けながらふたりの時間を楽しんだ。俺は有馬記念のレース結果と走った馬たちのあれこれや過去の名馬たちの話しを、競馬を知らないカオリにもわかるようにくだいて話した。カオリは今売れている話題の作家、本の話をした。お互いの他愛のないちょっとした言葉に笑いあった。
話題が途切れた頃、俺たちはそれぞれのプレゼントを渡すことにした。
カオリは俺が差し出した包みを開けて一瞬、怪訝な表情を見せた。それはそうだろう。
そして、カオリがくれたプレゼントを開けると、そこには……俺が買ったものとほぼ同等のブランド物の財布があった。思わずカオリの顔を見た。
カオリは少し微笑んだあと、泣きそうな表情に変わっていった。
「なんだよ。これ」
「狂死狼さんこそ……」
「これってまさか『O・ヘンリー』かよ。かなりできそこないの」
「『賢者の贈り物』ね……」
「あの有名な短編小説な。デラはクリスマスの日、夫のジムに贈り物をしたかったけどお金がなかった。そこで自慢の褐色の長い髪の毛を売ってジムが大切にしている金時計のためのプラチナの鎖を買ってあげるんだよね。ところがジムは、金時計を売ってしまい、デラが欲しくてたまらなかった宝石をちりばめたくしのセットを贈った……ていう話し。でも、俺たちのこれはかなり違うよね」
「なんだかわたしたち馬鹿みたい」
「ホント馬鹿だよ。おたがいに約束破ってこんな高いものを……おかげで財布に入れるお金なんかもうない」
「それはおたがい様。ふふふ」
泣きそうな顔が今度は笑顔になった。
「完全に『愚者の贈り物』だよ」
けれどふたりは、この上なくしあわせを感じていた。お互い似た者同士なのだろう。最後のワインをグラスについで乾杯したあと、俺たちはレストランを出た。
カオリはぴたりと俺の腕にしがみついてきた。冷え込む冬の夜に、互いの体温を感じながら俺たちはゆっくりと帰り道を歩いた。
ふと、無口になったカオリがぽつりと言った。
「ねえ。わたしのこと愛してる?」
(え?)
愛しているかだって? 俺は自分の中で自問自答した。ひどく動揺した。
「ああ……愛してるさ……」口ではそう答えながら明らかにうろたえていた。(殺した男の娘を、俺は愛しているっていうのか?)
カオリはさらに強く腕にしがみついてきた。
(愛することなんてできる訳がない!!)
その時だった。路肩に止まっていたクルマが急発進し、うなりを上げて俺たちに迫った。ブレーキをかけるどころかますますスピードを上げ、間違いなく俺たちを狙って突っ込んできた。暗がりで良く見えなかったが、運転しているのはファミレスで脅したあのスーツの男だ。顔の角ばった輪郭でわかる。たぶん間違いない。今にも迫りくる狂気から守ろうと、俺はカオリの手を咄嗟に離し、突き飛ばすようにして右方向に逃した。俺が立ち止まって身構えると、奴は急ハンドルで進路を変えようとした。途端にクルマはコントロールを失い、背中を丸めて叫び声を上げるカオリのいる場所へと横滑りで突っ込んだ。
「きゃあああ!!」
『どん』
鈍い音がしてクルマはカオリを跳ね飛ばし、電信柱にぶつかって止まった。男は窓を開けて一瞬見渡し状況を確認すると、一度バックしてそのまま一目散に走り去った。道路にころがった俺の贈り物を、無残にもタイヤが箱ごと踏んづけて行った。
「カオリぃぃぃー」
雪だ。雪が降ってきた。
最低のクリスマスイブの、きよくもない俺たちの長い夜がはじまった。
では、昨日と今日の投資競馬をまとめて報告しようと思う。
久しぶりに当たった。馬連12.9倍だ。しかし、負けを取り戻すにしてもまだまだ足りない。取り合えずあったことは良しとしよう。まあこれからだ。
そして今日12月24日の南関、浦和競馬。その結果は残念ながら外れ。
明日12月25日の南関競馬、買い目はこのレースだ
大井9レース 3連複⑧→1、2、3、5、9
10点(15倍以下は切り)
南関総投資資金 315,990円÷36÷10≒800円 1点=800円の勝負だ。
2018年もあとわずか。いったいどんな結果が待ち受けるのだろうか……
続く




