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逃亡馬券生活   作者: 狂死狼
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第2章 逃亡者の休息 19

「俺は殺人者だ。行方をくらませ裏街道を歩き、人目を避けて生きるしかない。投資馬券が唯一の生活の糧だ。神のいたずらなのか、いつの間にか殺した男の娘と暮らす羽目に……究極のサバイバルの日々を綴ってゆく」



 きよくもないこの夜 その2



「ミウラよ。なあ。あれは自殺志願者を救うための、きっとあんた特有のハッタリなんだろう?」

 俺はミウラにカマをかけるように訊いた。

「はあ? なに寝ぼけたことを言う。ワイは死にたい奴は死んだらええと思っとる。その方が世のため、人のためだ」ミウラはとぼけた口調で答えた。


 ここ地方競馬場外馬券売り場で俺たちはビールを飲みながら、ひとつのテーブルを占領し、歓談の場としていた。ゆるりとした雰囲気を演出しながら、俺はミウラに探りをいれてみた。それと同時に、チャンゴに目で合図をした。ミウラが言っていることがはたして本当なのか。

『お前の能力で確かめてくれ』という合図だ。そのために奴にはビールをご馳走していた。

「本当なのか?」

「なにが?」

「だから、たったの10万で自殺の手助けをするっていうあんたのあの時の話さ」

「嘘も本当もない。やるっていうたらワイはやる」

 俺はミウラの表情に嘘がないことを感じて少し怖くなった。

「でも、それじゃあ割に合わないだろう。今時たったの10万で? ひと月の生活費にもならんだろう」

「いいんだよ。それだけもらえりゃ充分さ」

「でもそれじゃあまりにもリスクが大きい。たったの10万じゃ……知らないのか? 自殺ほう助は重罪だぞ」

 ミウラはその口元に笑みを浮かべて言った。

「捕まったらそのときはその時さ。別にいいやん。ワイごときが刑務所に入ろうが死刑になろうが。誰も悲しむ奴はおらん。いいか、言っとくが、あんなゴミ溜めみたいなネットカフェで暗い顔をしている奴っていうのは、十中八九自殺願望があるやつだ。ほぼ間違いないんだよ。だからワイは一人でも多く望み通り死なせてやるか、あるいは生きる気力を復活させて思いとどまらせるか……別にどっちだっていいんだ。幕引きができたらそれで満足なんや」

「そうなのか」

「ああ。でもな……」

「なんだ?」

「確かに10万で自殺を手伝うって言ったらさ、ほんま誰も乗ってこないんよ。まず思いとどまるよね。もしかしたら俺のやってることって、少しは自殺防止には役立っているのかも……最近つくづく思うよ。ワイには10万って、すごい金額なんやけどな」

「そうか。そうなのか……じゃ、まあ飲めよ」

 俺は紙コップの特大の生ビールをミウラにおごった。

(お前のおかげで俺だって今、生きてるんだ。きっとそうさ)

 この男はよく考えているようで実は浅くて、なのに心の奥底は計り知れないほど本当は深いのかも知れない……俺には良くわからない。本当に自殺の手助けをしたことはあるのだろうか? 悪い奴じゃないということだけは間違いない。

「どうだった。チャンゴ?」

 俺はチャンゴの意見を求めた。ビールを底まで飲み干してからチャンゴは答えた。

「ああ。この人、全然嘘は言ってないよ。保証するよ。次のレースは最低人気の10番を買うつもりみたいだしね」

ミウラは何故わかったという、不可解な目をチャンゴに向けた。

馬券が下手なことはこれで証明されたようだ。

 俺はチャンゴにもう一杯、特大の生ビールをおごった。




 12月19日、南関競馬の三日目、川崎第3レース。昨日の当たって元返しを鑑みて、俺は今後、15倍以下のオッズを切ることにした。すると3レースの結果は固い固い決着7-8-9だ。予想は当たっても買い目にはない、という結果となった。

 三連複7-8-9は850円だった……これならば仕方がない。当たっったところで取りガミだ。切って正解だったとしよう。


 昨日予想した今日の川崎第12レースがまだ残っているが、その結果は明日書くことにする。

 そして明日12月20日の川崎競馬は残念ながら、期待値の高い該当レースはない。明日はお休みだ。


 ということで、問題は果たして年が越せるかどうかだ……。



            続く




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