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逃亡馬券生活   作者: 狂死狼
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第9章  転がる石のように 13

「俺は殺人者だ。行方をくらませ裏街道を歩き、人目を避けて生きるしかない。本格的な投資馬券と命を食いつなぐサバイバルの日々を綴ってゆく」

1  最悪のどん底 



 その13



「本当のことを言うとね。優香ちゃんがね、もし、許されるならあなたのことを……わたしにお願いしたいって……そしてこれを」

そう言ってアリサはGPSの端末というか、スマホの画面でこのあたりのモノと思われる地図を俺に見せつけた。赤いマークが点滅いてい。それはまさしくここ、平成ホテルの位置を示している。

「なんだ、これ」

そしてアリサは俺の、ほぼ唯一と言っていい持ち物である、部屋の片隅に置いてあった大きめのリュックを指さしてそれに近づいた。「ちょっと、この中身を見ていい?」

え? どういうことだ。「ああ、かまわないよ」大したものが入っていないのはわかりきっている。俺はそう、答えた。

「じゃ、開けるよ」アリサはそう言うと、リュックの内ポケットの中に手を入れ、そこから小さな小箱を取り出した。

「あっ」

思わず声が出た。それは以前、優香が俺の居場所を突き止めるためにこっそり忍び込ませたGPSの発信機だ。前より小型化しているが、まさしくそれに違いない。

「優香ちゃんはね、やっぱりあなたのことを……きっと一番に思っているのよ。あたしにこれをわたしてさ、くれぐれもよろしくお願いしますって、言ったの」

「そんな馬鹿な話があるか。そんな……」

「なんだか、あの娘の切実な想いとね……私のなんだかよくわからない想いが、その時はじけたようになって……それからいてもたってもいられなくなって」

「それで俺の後をつけてきたのか?」

「……まあ、そういうことになるかな」

俺は優香の思いつめた気持ちがわかるようなわからないような複雑な気持ちだった。

俺たちの秘密を、このアリサに話し、しかも優香を奪ったあの男を許せない。心から憎んだ。そしてあの男に身をゆだねて俺を助けようとしたに違いない優香がますます愛しく思えた。

だがしかし、今は何をどう思おうが俺には何の力もない。優香は俺のことを最後まで思いながら、今後の運命をアリサに託したのだろうか?

俺にはいったい、何が何だかわからなくなっていた。途方に暮れていてしまったのだ。そんな馬鹿な行動をとるぐらいなら、いっそ、ふたり潔く死んだ方がよっぽど良かったんじゃないのか。

そんな俺の気持ちをよそにアリサは言った。

「わたしじゃ……優香ちゃんの替わりは無理なんでしょ……そういうことでしょ」

 すまん、その通りだ。と俺は言おうとした。だが、アリサの涙を見た時、正直な言葉は飲み込むしかなかった。その代わりに出た言葉は残酷過ぎた今でも思う。しかし、命さえ惜しくないと感じていた俺にとっては、せいいっぱいの思いやりの言葉だったんだ。

「ごめんな。俺、デブは無理なんだ。ごめん。ありがたいけど、なんて言うか……その……」

「わかってる。痛いほどわかってるわ。今日まで傍にいてさ、そんなのいやって程わかった」

「ごめん……」

「一か月だけ待って。チャンスをちょうだい」

「え?」

「見違えるほど痩せて見せるから。その時の私を見て……判断して」

「いや、そんな無理しろなんて」

「じゃね。一か月後にね。その時また」

 といってアリサは唇を固く結んで俺を見た。涙をいっぱいに貯めて。

「あ、ああ」

 俺にはそれ以上、何も言葉を掛けることはできなかった。


 そんなことがあってから俺は死んだように引きこもっていた。

 ひたすら起きては過去の競馬の結果と格闘し、飲んでは寝、起きてはなた格闘の日々だった。

アリサはそれから姿を見せることはなかった。

 俺はとにかく投資競馬の研究と投資に没頭した。


 年が明けてからの成績は振るわなかった。今のところちょいマイナスで推移していた。

 年末の有馬記念からの集計であればまだプラスではあったが、そんな言い訳は何の意味もない。



  続く。




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