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逃亡馬券生活   作者: 狂死狼
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第9章  転がる石のように 3

「俺は殺人者だ。行方をくらませ裏街道を歩き、人目を避けて生きるしかない。本格的な投資馬券と命を食いつなぐサバイバルの日々を綴ってゆく」


1  最悪のどん底 


 その3



 去年のクリスマスまではカオリとの不思議で刺激的で、それでいて楽しい日々があった。それからカオリが事故に遭い優香に出会った。仕組まれた出会いではあったが……そして優香との安らぎを感じられる日々が始まった。

  あれから一年。たった一年の間に俺のまわりはめまぐるしくその姿を変えた。

そもそもがカオリの父親を刺した。そのことが発端だ。殺意を込めて刺したのだ。それは間違いない。人間として絶対にやってはいけない犯罪行為だ。けれど、あの男から受けた直接的な仕打ち、さらにあの男が眼前で繰り広げた傍若無人の振る舞い。俺には衝動を抑えることはできなかった。

それにしても……運命共同体であるはずの優香が、あの男のとどめを刺した優香が俺のもとを去るとは。いまでもまだ信じることができない。胸の中にぽっかりと穴が開いてそこから空っ風が吹き荒れたままだ。いくら酒をあおっても、眠りにつこうと横たわっても、本当の眠りにおちることなどなかった。

 俺は無意識のうちに見えない追手の姿に怯え、カオリや優香や、花菜や、蓮子にさえも俺は常に怯えていた。現実と夢の世界の狭間の中で、俺は常に誰かに追われている。それはやはりあの男の亡霊なのかもしれなかった。

やってきたクリスマスイブの夜。

俺はスーパーで298円のピザと920円のチョコケーキと340円のフライドチキンを買った。それからアルコール9%の酎ハイ缶を7本買って宿へ戻った。


 K市の商店街のはずれにひっそりと位置する木賃宿「平成ホテル」3畳一間の部屋は怯える男を匿うにはうってつけの箱だった。

死刑囚の生活というのもほぼこれと一緒なのではないだろうか。そんな思えた。拘置所の独房にいかにも良く似かよっていた。

「平成ホテル」の3階。ドアをふたつ隔てた奥の部屋318号室に永く連泊する男がいた。永井と名乗のる30代後半の痩せた男だ。時々、部屋を出て洗濯や入浴をするたびになぜか顔を合わせることが多かった。何をしているのかしているのかは定かではない。いつもストライプのYシャツにスラックスといったきちんとした格好をしていた。無口だった。謎のベールに包まれた男だったが、俺が競馬ブックの入ったコンビニ袋を下げて廊下を歩くのを見て声をかけてきた。俺に馴れ馴れしい口調だった。

「ほう。あんたも競馬をやるんだ」

「ああこれね。一応、競馬で生計を立てるのが目標なんで」

「ふーん。うまくいってるの」

永井は興味深そうに、俺とコンビニの袋に入った競馬ブックとを交互に眺めてにやりと笑った。

「まあ、ぼちぼちだ」

「今週のホープフルステークスは勝負するの?」

 俺は首を左右に振った。

「二才戦はやらないと決めてるんだ」

「はーん。まあ、それも有りだけどね。永くやるにはうーん、どうなのかなあ。あたしには考えられないってゆーか。2才のオープン戦はかなり重要な1戦だと思うけどネ……」

「その考えも悪くはないけど俺に無理だ。真剣に取り組む意味でも」

「あはははごめんごめん。競馬は楽しく、自由にね。よろしくね」

「ああ。また」

 永井は洗濯かごを持ち318号室に消えた。

 どこかオネエが入った感じだった。



  続く

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