第8章 かなしき口笛 34
「俺は殺人者だ。行方をくらませ裏街道を歩き、人目を避けて生きるしかない。投資馬券はいまいちだが、共犯者優香とのあらたなるサバイバルの日々を綴ってゆく」
⑶ 死闘の彼方
その5
バッターボックスで繰り広げられるわいせつ行為は、だんだんとエキサイトしていった。女の目はすでに快楽の海に溺れた魚のようだった。どうにもこうにも目のやり場に困った。俺はいったいどうすればいいんだ。二人の行為が終わるまでネクストバッターズサークルでただつっ立ってろというのか。股間の愚息とともに。
「いい加減にせんか。馬鹿者がッ」シンちゃんが業を煮やしてついにはビニールホースを引っ張ってきて、あへあへやっている二人に放水した。
「きゃあああ」「あ、わわわ。なにしやがる。いいとこだっつーのに」
あえなく二人はドッキングを取りやめる羽目となった。つまり、ハメを止めざるを得ない羽目に陥ったということだ。キングカメハメハもほっと胸を撫で下ろした瞬間だった。
小さい頃、よく道端で雌犬に乗っかってドッキングしている犬を見かけたことがあった。そんな時はバケツに水を汲んでぶっかけたりしたものだ。あの時は雌犬がいじめられていると思いこんで助けるつもりだったのだが。まさにあの光景を思い出していた。
水を放たれた二人、特に男のイチモツは急速にしぼんでいった。
「おぼえてろよ! くそー」あえなく二人はグラウンドを去った。
「ヘイ、試合再開ネ」レアドンが投球練習を始めた。大きく振りかぶってテリーめがけて腕を投げおろした。その股間はあきらかにもっこりだった。
はたしてさっきのアレで戦意喪失、ヤツの球威を少しでも削いでくれればいいのだが……。
「ズッバアアアンッ」
ものすごい豪速球がテリーのミットに吸い込まれた。さら球威とスピードが増しているのは明らかだった。
「うおおおおお! ワターシの闘志にも火がつきまーした」レアドンは胸を大きく反らして両手で叩いた。ゴリラの威嚇だった。
「おいおい、これじゃ全く逆効果じゃないか」途方に暮れるしかなかった。
とはいってもバッターボックスに立たなければ何も始まらない。とにかくバットを振ることだ。もしかしたら当ることだってあるかも知れない。そう考えて俺は打席に立った。無駄だった。バットを振る間もなく目の前を、目にもとまらぬ速さの物体が通り抜けて行った。同じ人間が投げるボールとはとても思えなかった。三球三振。あえなく俺はアウトとなった。
続く2番天見親分だ。彼は高校野球の経験者だ。きっと何とかしてくれるだろう……との期待は一瞬で崩れた。テリーのミットにボールが入ってからようやくスイングを開始するのだった。もっとも、振っても振らなくてもおなじことだろう。ボールはド真ん中のストライクだ。残り2球も同じだった。あえなく三振に倒れた。
「いやあ、ほんのちょっとタイミングがズレてるなあ」
ちょっとやそっとではない気がしてならないが「ドンマイッ」とだけ言っておいた。
続くバッターは伊藤だ。こいつもなかなかスジはいいモノを持っている。痛めつけられた過去を水に流して練習に共に励んだのだ。三球三振だった。
これはやばい。まずいことになったぞ。レアドンの球を全く打てる気がしない。あまりにもレベルが違い過ぎる。別格のボールを投げやがる。もはや2点のビハインドをどうすることも出来ず、ずるずると行ってしまうのだろうか。
チェンジとなり、俺達が守備についたところでまたしても異変が起こった。
「チー」「ポン」「よっしゃリーチ」「そりゃ、一発メンタンピンドラドラハネマッチョ」ピッチャーマウンドにはコタツが運び込まれ4人が麻雀を始めたのだ。いつの間にかしゃもん弟が加わり、若い女も混ざっている。
「こらあ!! 何をやってる」シンちゃんは怒髪天の勢いで怒鳴りつけた。
「なんだよ。マウンドで麻雀やったら駄目だとはルールブックのどこにも書いてねえだろが」
「だからといって、常識ってもんがあんだろが。ここは神聖なグラウンドだ。マージャンもチョメチョメも禁止だ!!」
「なんだよウルせ―親父。こっからいいとこなんだって。ほら」
「しょうがないわネ、もう~」ハネマンを振り込んだ女が服を脱ぎ始めた。
「セクシー脱衣麻雀だぜ。ホラみんな注目ッ」
シンちゃんは卓をひっくり返した。「どあほうどもめッ。さっさと片付けろ」
しぶしぶ麻雀メンバー達はベンチへと戻った。
波乱の2回表、ゴッドハンズの攻撃が始まった。
続く




