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逃亡馬券生活   作者: 狂死狼
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第2章 逃亡者の休息 16

「俺は殺人者だ。行方をくらませ裏街道を歩き、人目を避けて生きるしかない。投資馬券が唯一の生活の糧だ。神のいたずらなのか、いつの間にか殺した男の娘と暮らす羽目に……究極のサバイバルの日々を綴ってゆく」

(16) 捕らわれの貧しい心 その3



 ぐちゃぐちゃの残骸を、なおも包丁を叩きつけているカオリの後ろで、俺は無理に無理に陽気な声で言った。

「なにこれ。旨そうだね。かまぼこかつみれにするのかな?」

 カオリはびくりとして振り返った。

「え? なに」

「俺だよ。ただいま」

「ああ、狂死狼さん。お帰りなさい。違うの……これはね、あたしが毎日図書館で大事に扱っている本をね、汚したり破いたり折り曲げたり、そういう嫌なひとたちを懲らしめてるの。こうやって思い知らせてやってるのよ」

 カオリはなおもサンマへの虐待の手をゆるめない。がつん、がつんと包丁がまな板にめり込む音が響いた。

「ああそうか。うん、じゃあしっかりな」

「ええ。気にしないで。狂死狼さんは夕食ができるまでテレビでも観ながら待ってて」

「うん。わかったよ」

「ふうう……」ため息をついたあと……カオリはいきなりサンマの残骸をゴミ箱へと捨てた。

 カオリは恍惚に満ちあふれたような妖しげな表情で、眼球をひっくり返したように白眼を剥いていた。俺は思わずのけぞり、びくりと背中を震わせた。


「ごめんね。今日はご飯とみそ汁しかなくて……」

 カオリは済まなさそうに言った。

 テーブルの上には、まさしく二人分の白米と豆腐の味噌汁だけだった。

 「ああ。いや、いいよいいよ。これだけあれば充分。カオリが作ってくれたものなら何だって美味しいよ」

「本当? 本当にそうなの」

「ああ。嘘じゃないって」おれは無理に笑って白米をかきこんだ。

 カオリは俺の顔を睨むように見た「ごめんなさい……ああ、でもアレがあった。ちょっと待って」

 そういって食器棚がわりの段ボール箱から小さなガラス瓶を取り出した。イチゴジャムだった。

「これ、ご飯にかけるとおいしいから。はい、どうぞ」

 カオリはたっぷりのイチゴジャムを、テーブルに置いた俺の茶碗の白米に塗りつけた。

 俺は吐き気を催したが、無理に笑って口の中へと押し込んだ。

「うん。これはすごくおいしいよ……」

「良かったあ」カオリはにっこりと笑った。

 俺は涙が出そうになった。はたして……こんな生活を、いったいいつまで続けられるのだろうか……。



 残念ながら、今日も競馬は負けだった。中山9レース、軸馬の6番エルデュクラージュは終始馬群につつまれ、見せ場もなしに8着に沈んだ。

 さすがに1カ月もの間、当たりなしは辛い。いくら想定内の連敗だと頭で解っていても、耐えるというのはなかなか難しいものだ。だからといってフォームを変える訳にはいかない。それはナンセンスだ。資金が尽きるまで、絶対に一度決めたフォームを崩すべきではない。

ただ、このままでは精神的にこたえる。ならば、今ある資金を有効に活かすためにも……そう。

 いよいよ、明日の川崎競馬から、円月馬法バージョン2を試していこうと思う。


【地方競馬 総投資資金 スタート=36万円】

 明日の勝負レースを3つ選んだ。 

 川崎第5レース ⑦→2、3、4

 川崎第6レース ③→1、6、8

 川崎第8レース ⑥→4、9、10


 それぞれ3連複軸1頭流し、買い目は3点となる(レースによっては6点、10点買いもある)。

 1点1000円ずつだ。

 さあ、どうなるだろうか? 結果は、神のみぞ知る。


            続く


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