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逃亡馬券生活   作者: 狂死狼
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第8章  かなしき口笛 31

「俺は殺人者だ。行方をくらませ裏街道を歩き、人目を避けて生きるしかない。投資馬券はいまいちだが、共犯者優香とのあらたなるサバイバルの日々を綴ってゆく」

⑶ 死闘の彼方


  その2

 

 球場内は不穏な空気がすでに立ち上っているかのようだった。内野外野席にはびっしりとファンならぬ極道関係者がひしめきあっていた。当然、神龍会と教龍会の身内が多く席を埋めていたのだが、彼らの組織とは何の関係もゆかりもない、チンケな半グレの連中も多く集まっていた。いわゆる暴走族くずれの若い奴らだ。

 近頃彼らは、かつての『暴走族』や『ゾク』などといったカッコつけた呼び方をされずに『珍走団』だとか『暴珍族』などといわれ、若者の中ではダサさの極みであるといった風潮もあり、すっかり下火となっているようだった。暴力団関係者の間ではそのために、構成員の補充あるいは後継者不足にあえいでいるといった噂も流れていた。 

 さて、メンバー表を見ておわかりのように、スーパーピエールズ、我らが教龍会のメンバーには多くの俺の友人知人、そして勤め先である岡林探偵事務所のメンバーが名を連ねている。それは花菜と天見親分の望みでもあったのだ。つまり、教龍会の構成員には野球経験者は皆無、スポーツすらまともにかじった者がほとんどいないという事実に困り果て、俺にお声がかかったというのが真相だ。

 正直、中学で野球を少しかじった程度の俺だったが、思いのほか天見親分に頼りにされた。そして、正式に今大会の、手助けの依頼を受けた岡林所長は、俺とナカムラさんウサミさん、それに俺が紹介したミウラや定正シン、しゃもん弟を選手に任命してスーパーピエールズに忍び込ませたのだ。

 とはいっても俺はずっと練習に参加した訳ではなかった。休日や仕事が早めに終わった日には練習に参加しろとのお達しだった。たいして経験のない他のメンバーは合宿に参加し、朝から晩まで練習に明け暮れたのだった。

 俺は週末になるとO市へとやってきて特訓に参加した。△△市からはクルマで約40分で練習場まで来ることが出来た。

 毎日練習を見守っていた花菜と一度だけ話をした。

「ずいぶんと熱心に練習を見てるね。野球が好きだったのかい」

「ううん。そうじゃない。この試合にはきっと、兄を殺した奴がやってくると思うの」

「ああそうか。犯人がこの世界の関係者ならば、きっとそうだろうね」

「お願い。そいつを……見逃さないでね」

「ああ。わかってるさ」

 そうは言いながら、俺には全く自信がなかった。そんなもん見た目でわかるかよ、というのが本音だった。だがそういって突き放す訳にもいかない。

 そして短い期間、猛特訓を潜り抜けた俺達は今日、晴れてこの球場へとやってきたのだ。

1塁側スタンドが俺達の応援席だ。今日は休みの岡林探偵事務所の面々、それになぜか優香も応援にやってきていた。

 何もわざわざ来ることないのに……どうしてもという強い要望から、仕方なくつれてきたのだが……俺は花菜との関係がばれやしないかと、戦々恐々としていた。

 時々優香が座っている席の方へと常に注意しなければならなった。試合前の練習中でも気を配っていた。

 練習時間が終わり俺達はベンチへと戻った。それからすぐに相手チームの練習が始まった。

 俺の目は相手チームの外人バッテリーにくぎ付けとなった。

「なんだこれは?」

 相手投手レアドンが投げる球は常軌を逸していた。まるでプロ野球選手が投げるそれだ。球速は150キロ近いだろう。ずばあんと小気味よい音を立ててキャッチャー、テリー・ファンド・ジュニアのミットに勢いよく球が吸い込まれた。

「おいおい。これはまずいぞ。素人に打てるわけがない」

 俺はもう一度メンバー表に目をやった。

 あれ、外人の名前が5人も。どういうことだ。これは抗議だ!!

 いきり立ったところでふと、優香の座る席に目をやると、怖れていたことが現れたのだった。

 優香の隣りの席にはいつの間にか花菜が座っていた。

 なにを話しているのだろか……二人は談笑していた。いったいどうなってるんだ!?

「恐ろしい……あまりにも恐ろしい」

 俺はまず、今大会の審判を勤めるシンちゃんに外人枠の件を訴えた。

 シンちゃんは額から汗をだらだらと流していて、相当顔色が悪かった。

「おい、いきなりルール違反じゃないのか。あっちのチーム」

「慌てるなって。大丈夫なんだよな。バッテリー以外はみな日本国籍だ。ルール違反じゃないんだよ。ふふふ。それよりもさ、まあ見てなって」

 ああ? こっちはのんきなことなど言ってられないんだよ。観客席では早くも女どうしが火を吹いているんだってば。

 などと焦りつつ、いよいよ試合開始なった。



  続く



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