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逃亡馬券生活   作者: 狂死狼
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第8章  かなしき口笛 17

「俺は殺人者だ。行方をくらませ裏街道を歩き、人目を避けて生きるしかない。投資馬券はいまいちだが、共犯者優香とのあらたなるサバイバルの日々を綴ってゆく」

(2)  夏の終わりに 


 その1


 花菜は俺に自分の決心を伝えた。どこまでが本気で本当なのかもわからない。

それをかなえてやれる程の器量が俺にあるのだろうか。俺など岡林探偵事務所というちっぽけな事務所のしろうと探偵にすぎない。まして使われている身だ。相棒のナカムラさんだってそうは付き合っていられないだろう。無理に決まっている。そう思っていた。

 だが意外なことに、所長は俺たちに言うのだった。

「とことんやれ。やっちまえ。やられたらやり返せッ」

 ああ、そうだった。

岡林探偵マニュアル第6条

やられたらやり返せ。とことんやって後に遺

恨を残すな!


 暑い日だった。H道では珍しい35度を超える気温だった。

そんな中、川島会長の葬儀はO市で一番大きな葬儀場○○ホールでしめやかに執り行われた。H道内外からその筋の関係者が数多く参列し、H道警察は機動隊を集結させて周囲の警備に当たった。物々しい雰囲気の中、おびただしい数の報道陣も集まっていた。

 俺とナカムラさんは貸衣裳の喪服に身を包み、伊達メガネと付け髭でまぎれ込み、周囲をうかがっていた。意外に目立つことはなかった。

 参列する者たちの腹には、跡目を継ぐ者を見極めようとの思惑があるのだろう。それによって今後の自分の立ち位置が微妙に変わる。いかに有利に自分の立場を取るかという行動に移ってゆく。つまり、誰に取りいるべきかを探っていた。

 葬儀を取り仕切っていたのはやはり天見だった。当然のごとく参列者は一番に天見に挨拶をしている。川島傘下の組長4人の均衡は破れつつあった。序列の下にいる3人はそれぞれが苦々しい顔で並んでいた。

 花菜は幹部連中の末席に控えていた。表立ってしゃしゃり出るようなことはなかった。

 極道の葬儀だからといってさほど恐いという感じはなかった。一般の葬儀と何も変わらない。拍抜けの気がした。坊さんが5人並んでお経を読むのがえらく長いなと感じた程度だ。お布施の額が、一般とははるかに差があることは歴然だった。そのあとも親分さんひとりひとりの弔辞があったり、弔電の披露などで3時間にも及ぶ長丁場の葬儀だった。

 俺が注目していたのはただ一人だ。俺たちをコテンパンに痛めつけてくれたあの伊藤だ。奴は天見の周りでこまごまと動き回っていた。俺たちの姿には気づいていない。

 伊藤がひとりでトイレに立ったところを狙った。

 ナカムラさんと目を合わせて伊藤の後を追った。ふと見ると、花菜は俺たちを凝視していた。

 周囲に人気がないことを確かめ、小用の便器に放出している伊藤を後ろから二人で羽交い絞めにした。

「なんだ。何をしやがるッ」

 やつの股間の人並程度のモノが支えを失い、辺りに小便が跳び散った。危うくひっかかりそうになったが、気にしている場合ではない。そのまま個室へと引きずり込んだ。

 すぐさまタオルで目隠しをして両腕を後ろで縛った。それから伊藤の身体を隅々まで触り確かめた。あった。小型の拳銃が腹に巻いたさらしの中から出てきた。

「なんだ。きさまら、いったい誰だ。出院のもんか。小倉野か」

 それに答える気はなかった。代わりに拳銃を額にあてた。

「なあ。教えてくれればいいんだ。あんたが玉造の婆さんを死に追いやったんだろう。あるいは……その手で殺したのか」

「え……」

 伊藤は言葉に詰まったようだった。ひどく怯えたように動揺している。間違いない。何かを隠している。俺は直感した。

「本当のことを正直に言え。じゃないと命は貰う。俺たちはなあ、腹ん中が煮えくり返ってるんだ。思い知ってもらう」

 本当にそうだった。

 ナカムラさんは無言で伊藤のみぞおちのあたりにパンチを繰り出した。

「ぐええ」

 なかなかの威力だった。伊藤はうずくまり苦しんだ。

「次は指を1本ずつ切り落とすぞ」俺はナイフを取り出して伊藤の指に当てた。百均で買ってきた物だ。

「や、やめてくれ。お願いだ。頼むから。話す、話すよ正直に」

伊藤は泣きついてきた。

「よし。じゃあ言え。婆さんはなぜ首を吊ったんだ」

「それは……お互いに……、死ぬほど愛し合ったからだ」

「はあ?」

「なんだって」

「俺はミエさんが……ミエさんのことがたまらく好きになったんだ」

 俺は開いた口をふさぐまでにしばらくの時間を要した。



     続く

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