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逃亡馬券生活   作者: 狂死狼
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第8章  かなしき口笛 16

「俺は殺人者だ。行方をくらませ裏街道を歩き、人目を避けて生きるしかない。投資馬券はいまいちだが、共犯者優香とのあらたなるサバイバルの日々を綴ってゆく」

 (1)  花菜の決心 


 その16



 ほとばしる命の源と共に俺は果てた。

 生命が命をつなぐために与えられた快楽と苦しみとを、同時に味わったような気がした。いずれにしても天見組の奴らに痛めつけられた身体の節々がきしむように悲鳴を上げた。よくもこんな状態で、男女の行為が出来るものだなと思う。

 だが、死ぬ間際にも子孫を残すためにあそこは屹立するのだという。何億年もの命の連鎖を感じていた。

「きっとあなたは殺される。相棒のナカムラさんも。その報告を持ち帰った途端に」その真意を訊いてはいなかった。この街を牛耳る反社会的組織のトップ、川島が父親らしい。いったいこの女は……

「そろそろ白状したらどうなんだい。俺には君という人がまるでわからない」

「そうよね。そりゃあそうだわ。ふふふ。あっははは」花菜は不敵に笑った。ますます捕らえどころがないという印象だった。

「君は何者なんだ。何故、俺と」

「ワタシね。あなたのこと好き。大好きよ。ピエールの店で見た時から。それこそあっと思ったの」

「どういうことだよ」

「死んだ兄に似てるの。そっくりなのよ」

「はああ? で……俺を誘ったのか」

「うーん。ちょっと違うかな……ワタシね、これでも、あの薬屋ピエールとエル・ド・ラーデの店、それにここのホテルのオーナーなの」

 ああそうなのか。それはすっかりだまされていた。

「え? じゃあなんでレジとか、客相手のホステスまでやってるのさ」

 俺は素直に感情をぶつけた。

「それは商売の一から十まで身をもって学ぶため。お客様と直接話して経営の指針を見いだすためなの。まあ、したたかでしょ」

「したたかでも何でもいいけど、じゃあ、なぜ俺たちをこんな目に」

「それは……そうね。強いて言うならば夏だからよ。この8月、何らかの戦争反対ドラマやドキュメンタリーを作っているでしょうけど、本当に大丈夫。せんだっての戦争から、診てもらうことだけがそれこそ飛んで火にいるなんとかみたいにワタシの前に現れたから。これは利用してやろうと思ったの」

「君にとって俺は夏の虫だったのか」

「だからそれは言葉のあや。でも、試したかったのかも……あなたならこれくらいの試練、きっとどうってことないと思ったから」

「それで俺たちは天見組のアジトで捕まり、あんな目に……ちょっと酷いんじゃないの」

「ごめんなさい。だからこうして最上級のお・も・て・な・し、して上げてるでしょ」

 なんだか頭にきた。だが、この女となるようになっている以上、まずは冷静に感情を抑えることにした。

「そうなのか……それは光栄な話だよネ。それで?」

「ワタシね、川島の娘だけど血はつながってないの」

「そうなの」

「川島は遊女だった私の母を見染めて一緒になることを決めたの。そして私と兄の面倒を見てもらうことになった。ところが、川島の全てになじめない兄は反発して……それがもとで帰らぬ人に。私にとって川島は恩人であり、仇でもあるのよ」

「めんどくさい人生なんだな。それで?」

「それでもワタシは耐えて耐え抜いた。言われるがままに天見や出院とも関係を持った……。でも、別に後悔してない。みんな優しかったし……それで父の夢が成就するならと思ってたの」

「じゃあ、それでいいんじゃない」

「よくない。あなたたちがあらわれたことで、天見組がオレオレ詐欺の手口で稼いで、多額の上納金を納めていることが問題になったの」

「別にどんな方法で稼いで上納しようと、あなたには関係ないのでは? 何も騒ぎたてることはしなくてもって気がするけど」

「良くない。そのために兄が死んだのよ。川島に責められて……」

「そんなことが」

「だから、兄を死に追いやった本当のことを探って欲しいの。探偵料は弾みますから。お願い。川島の命令で大事な兄を死に強い追いやった奴を見つけて欲しいの」

「ああ……わかった」俺は冷静に考えて見たが、これは相当やばいヤツだなと判断した。だが一宿一飯の恩義ではないけれど、ファイト一発の恩義もあるのだ。それはなかなか見捨てることはできない、俺と花菜はどう見ても怪しい関係をつくりあげたのだった。

 だから俺はこのあと瀕死の身体に鞭打って、ここO市の四天王とも呼ばれるる曲者たち4組長とともに、血で血を洗う抗争へと足を踏み入れるのだった。


 それは良くも悪くも、すでに逃れられるものではなかった。




     続く




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