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逃亡馬券生活   作者: 狂死狼
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第8章  かなしき口笛 14

「俺は殺人者だ。行方をくらませ裏街道を歩き、人目を避けて生きるしかない

。投資馬券はいまいちだが、共犯者優香とのあらたなるサバイバルの日々を綴

ってゆく」


(1)  花菜の決心 


 その14


 俺たちが向かう先には、信じられないものが待っていた……

 黒井の部下が運転する黒塗りの車は、屋上にヘリコプターが降りられる最新の医療設備を備えたO市屈指の総合病院、『K病院』の前で停まった。ここは数年前に建て替えられたばかりだ。

 8階建の最上階にあるその病室は、特別病棟と誰もが感じる豪華な造りの病室だった。俺たちは黒井にうながされて室内へと入っていった。

 入ってまず驚いたのは、病室の豪華さと広さだった。20畳以上はあるだろう、豪華な装飾が施された壁と天井、馬鹿でかいテレビモニターに応接セット、それにシステムキッチンが備えられている。広いフロアの真ん中には大きなベッドがあり、一人の老人が横たわっていた。老人は見るからに衰弱しきっていた。

 ベッドの上で薄い白髪が震えるようにたなびいている。小刻みに体が揺れているせいだった。顔はシワだらけで黒光りしていた。開いているのか閉じているのか解らない目はすっかり窪み込んでいた。

 ただそれ以上に驚いたのは、老人のかたわらにいるのが花菜だったことだ。チャイナ服のような身体に密着するドレスに身を包み上品な化粧、清楚な印象のままでにっこり笑い、たたずんでいるのだった。俺は言葉をかけることも出来ずに圧倒されていた。

「オヤジさん調子はどうですか」黒井がベッドに近づいて声をかけると、老人はゆっくりと手にしたリモコンを操作してベッドの上方を斜めに浮かせた。

 目が合うと、いきなり鋭い眼光が俺たちを射抜いた。

「この者たちは……誰だ」はっきりとそう言った。

 黒井が老人の耳に口を近づけて何やら伝えた。俺たちの情報を知らせているように思えた。

 それよりも俺は花菜の姿が気になった。いや、気にいらなかった。俺はまだ立っているのもやっとの状態だった。体中がずきんずきんと痛む。ふらふらだった。こんな目に遭ったのは……いったい誰のせいだ。

「おい。なんか俺に言うことがあるんじゃないのか」

 俺は花菜に向かって吐き出すように言った。それがたとえこのあと、どんな悪影響を及ぼすことになろうとも、そんなことはどうでも良かった。はるかに立場は弱い。わかっているさ……だが、殺すなら殺せ。そんな思いでいた。

「だいたい、あんたがなんでこんなとこで俺たちを待ってるんだ。ふざけるのもいい加減にしろよ」ありったけの怒りで言った。

「ごめんなさい。本当に悪かった。謝ります。こんなことになるとはちょっと想定外で……」

「どういうことなんだ」ナカムラさんが後を追うように言った。

 黒井が振り向いた。老人も俺たちを凝視している。その顔つきは昂奮しているように視えた。

「わあッははははは」と老人は大きな声で笑いだした。「これは面白い。ゆかいじゃのう。まだまだ死ぬわけにはいかんぞな。せめてお前の……行く末を見るまではな。うッ。ごほッ、ごほッごほッ」

 老人はむせ返るような咳をして苦しんだ。黒井と花菜が老人の背中をさすり始めた。

「落ちついて。大丈夫。まだまだ長生きしてよ。ねえ、お父さん」

 お父さんだって? ああ。そうなのか……その言葉を聞いて、だいたいの青写真が視えてきた。この老人は間違いない。噂に聞く川島重次教龍会会長……この街のドンだ。いやでも、花菜がこの人の娘だと? 俺に語った身の上話しは嘘だったのか?

 いや、それよりも俺たちは何故ここにいて、これからいったいどうなるっていうんだ? どうしてこんなことになった。

 その時。

「黒井! お前が図ったのね」花菜が黒井を指差して言った。その手には拳銃があった。「お前のやり方がずさんだからこんなことに……」

 黒井は素早く動いて俺の首を掴まえ、後ろに廻った。強い力で俺は首を絞められた。

「お嬢さん。見解の違いですよ。俺を甘く見ると……結局、困ることになりますよ」

 ばんッ 

 乾いた音がした。花菜の拳銃が火を噴いたのだ。

 黒井の胸のあたりに、それは命中したように思えた。だが、黒井の強い腕の力が首を絞めつけて弱まる気配はなかった。

 そのまま……俺は気を失った。



     続く

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