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逃亡馬券生活   作者: 狂死狼
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第8章  かなしき口笛  6

「俺は殺人者だ。行方をくらませ裏街道を歩き、人目を避けて生きるしかない

。投資馬券はいまいちだが、共犯者優香とのあらたなるサバイバルの日々を綴

ってゆく」

(1)  花菜の決心


  その6


「俺たちの仕事って……どうなんでしょうね。俺はつくづく嫌になることがあって。人の知られたくない秘密を暴くみたいなトコがどうにも。こっちにしたらどうでもいい様なことが、当事者にしたら生きるか死ぬかの大問題だったり。そういうのにぶつかると、どうにも遣り切れなくて……」

 O市卍街の居酒屋はどこも盛況だった。俺たちが入った店もほぼ満席だった。生きのいい魚介類が売りの旨いものを食わせる店だ。

 ビールをジョッキで3杯ほど飲んだあたりだった。つい、出た言葉だった。

「さあてね。誰しも知られたくない過去や秘密がある。それを知りたいがために我々を利用する人たちがいる。俺たちの仕事は依頼者の役には立っているけど、暴かれた人々には迷惑千万なことでもある。世の中の役に立つこともあれば、余計に誰かを苦しめる結果になることもある。君の悩みも良くわかるが、僕はそんなことは関係ない。全く知ったこっちゃないんだ」

 ナカムラさんは細い眼をさらに薄くしてコップ酒をあおった。

「そういう風に割り切れればいいんですけど」

「ああ。僕は人間というモノを、ただ飯を食って糞をするだけの循環器程度にしか思ってないから。もちろん自分もそうだし。こうやって酒を飲んで、旨い

アテを喰らってアルコールの作用でいい気分になったら、あとは小便と大便になるだけだ。これを頻繁に繰り返すと糖尿やら肝臓、すい臓がいかれる。上手く出来てるシステムだが、所詮人間なんてせいぜい持って70~80年だ。僕は好きに生きるし、他人のことを詮索するほど暇でもない」

 そういってたっぷり醤油をかけたホッケ焼きをほおばった。

 なるほど。ナカムラさんの言う通りだ。他人のことなどどうでもいいことだ。むしろ殺人を犯している罪人が何を偉そうに言えるだろう。俺には、ナカムラさんのバッサリと切るようなもの言いが、割りと好ましく思えた。今度の案件も一人の老女の秘密を暴くことになるのだろう。その結果を誰も喜ばないかもしれない。だが知ったこっちゃない。隠しておきたい秘密を暴く。それが俺たちの生きる糧となる。ただそれだけだ……と思いながら、何だか妙に虚しさを覚えたのも事実だった。

その時だった。

バン、バン、バンッ。

 明らかにそれとわかる銃声が轟いた。居酒屋のすぐ前の路上のようだ。

 俺とナカムラさんは店を飛び出した。

 中年の、どう見ても堅気には見えない風体の男が血を流して倒れていた。拳銃を持った若い男が走って逃げ出した。

「兄貴、しっかりしてください。おい、逃がすな。とっ捕まえろッ」その筋の男が、撃たれた中年男を抱きかかえて言った。

「おい、待てこらッ」子分と見える若者二人が撃った男を追いかけた。

「あれは出院組組長、出院寅之助だ」ナカムラさんが言った。

「ええ。襲ったのは?」

「おそらく……亜麻未組の奴らだ。亜麻未民次、跡目争いの中では一番の急進派だ。それにしても派手なことをやりやがった」

「いったいどういうことなんですか」俺はただならぬ状況に動転しそうだった。

倒れた出院という男は血を流して苦しんではいたが、意識ははっきりしていた。おそらく命には別状がなさそうだ。

「くそう……亜麻未のヤツ、絶対に許さねえ。ぶっ殺してやる」子分に支えら

えれながら立ちあがった姿は、さすがにひとかどの親分の貫禄を見せつけていた。

「とうとう……始まったか」ナカムラさんはつぶやいた。

「一体何が、この街に起きてるんですか」

「血で血を洗う抗争が勃発したのさ。全ては跡目争いだ。黒井組も動き始めてるはずだ。ここO市の勢力図がまさに変わろうとしている」

「ヤバいじゃないですか。こんな状況で俺たちの存在が知れたら……」

「まあ、生きては帰れないだろうな」

 おいちょっと。勘弁してくれよ。他人の秘密を探るのはまあいいとしても、自分の命まで捧げるのはイヤだ。勘弁してくれ。

 あたりは一杯引っ掛けて上機嫌の酔客で溢れていた。みな他人事のようにスマホや携帯で、発砲事件のあらましを撮影している。この国は他人のプライベートが大好きなよこしまな好奇心で満たされ

ているようだ。

「おい、てめえら。どこまでもネット情報を追いかけてやるからな。ヤクザもんを舐めるなよ。俺の姿を晒した動画が流れたらよ、そん時は覚悟しろッ」出院は傷口を押さえながら吠えた。

 どこまでもキナ臭い風が吹いていた。

 俺たちが追っている詐欺事件にこんな危ない連中が関わっていないことを祈る他なかった。



     続く



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