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逃亡馬券生活   作者: 狂死狼
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第8章  かなしき口笛  5

「俺は殺人者だ。行方をくらませ裏街道を歩き、人目を避けて生きるしかない

。投資馬券はいまいちだが、共犯者優香とのあらたなるサバイバルの日々を綴

ってゆく」


(1)  花菜の決心 


 その5


「よっしゃあ! 3レースのアレは確かな情報だったな」

4レースの検討を始めた俺たちをよそに、フロアの中央に陣取ったカタギじゃない奴らははしゃいでいた。そうか。奴らは裏情報をもとに、大金をHドウケイバに注ぎ込んでいるのだな。怪しい出どころの金をマネーロンダリングでもしているのだろうか。

 俺はそう感じていた。

 すぐそばで焼酎をチビチビやりながら100円、200円の豆馬券をちらつかせていた70後半くらいに見える老人が話しかけてきた。白髪頭にシワだらけの顔が印象的だった。

「見ない顔だネ。初めてかい? ここは今ヤバいから大人しくしてるか、一杯飲んでひと勝負したら悪いことは言わねえ。早えとこ帰りな」

「なんでですか。来たばっかりですよ」俺は憤慨した。

「ああ、あんたたちここのもんじゃないんだろう。Oに来たのは初めてかい?」

老人は見透かしたような顔で俺たちを見た。すでに相当飲んでいるのか、昼間っから気持ちいいほどの赤ら顔だった。

「いやまあそうだけど。△△市からさっき着いたばかりだから」

「やっぱりな。今、ここOはヤバいんだって。何も知らんのけ?」老人はグビ

リと20度のワンカップ焼酎を一口飲み込んだ。

「おやっさん。何か知ってるの。ほれ、これ」ナカムラさんはいつの間にか売店で買った焼酎のワンカップを老人に差し出した。

「悪いね。いや奴らはほら、教龍会傘下の極道どもだよ。あそこに陣取っているのは教龍会筆頭組長の小倉野だ。小倉野組、組長小倉野桂馬。今のところ、教龍会会長の跡目争いの中心人物だ」

「跡目争い?」

「そうよ。今、会長の川島重次の容体がおもわしくなくてな。次の会長の跡目を狙って、傘下の組長同士で争いが始まったのさ。世の中モノを言うのは金だ。誰が一番、川島会長に香典を捧げられるかが跡目の勝負ってわけさ」

「なるほど。それで小倉野さんは裏情報をもとに一世一代の大勝負ってところか」

「ああ、やつは昔からの馬喰ばくろうだからな。H道の競馬産業には貌が効く。ここぞという時に面倒見た牧場のしもべどもが情報を知らせるのさ」

 老人は手にしたワンカップの焼酎をぐびりと飲み干した。

「ずいぶんと詳しいんだね」俺はつまみのイカの燻製を老人に差し出した。

「長く生きてりゃイヤでも耳に入るさ。だからな、ここしばらくは気が立ってるやつらの傍には近寄らん方がいい」

「ああわかった。そうするよ」ナカムラさんは冷めた眼で4レースのオッズ画面を追いながら言った。

 それからの展開は、小倉野組の派手な連中が当たると大騒ぎ、外れるとこれまた、あの小僧をぶっ殺すなどと息巻いていた。

 結局、俺とナカムラさんはそのあと4レースほどをちまちまと遊んで場外馬券場『アイ―バ』をあとにした。言うほどナカムラさんの馬券の腕は大したことはないと感じた。

 それからO市花園卍街へとタクシーで移動し、まずは居酒屋で乾杯した。

 薄暗闇の中、長い夜が始まろうとしていた。

 港町にはどこにだって必ず色街がある。

 海を渡り歩く船乗りにとって、たどり着く港には必ず酒と女が必要なのだった。だからどんな小さな港であろうと、必ず港の近くには色街が出来上がる。

 そこには船乗りたちの哀愁と欲望と人生が漂っている。色街で働く女たちは、ひたすら男が港にたどり着くのを待つのだ。

 たどりついた路地には、いつも悲しい口笛の音が……

 どこからともなく流れるのだった……


 

     続く。



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