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逃亡馬券生活   作者: 狂死狼
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第8章  かなしき口笛   2

「俺は殺人者だ。行方をくらませ裏街道を歩き、人目を避けて生きるしかない。投資馬券はいまいちだが、共犯者優香とのあらたなるサバイバルの日々を綴ってゆく」


(1)  花菜の決心 


 その2


「それは詐欺です! 詐欺師の魔の手はあなたを狙っています」

「暗証番号を聞き出そうとする、銀行員を名乗る者からの電話……」

「減税による還付金があるので口座番号を教えてください。つきましては係の者が伺いますので暗証番号を一度伝えてください。すぐに変更いたします。などと誘い込む役所の人間を語る電話……」

朝の国営放送では、詐欺師による被害を未然に防ごうなどと一大キャンペーンだ。勝手に電波を送って金を絞り取る自分たちのことをどう思っているのだろうか。放送詐欺を隠ぺいするがための目眩まし作戦ではないのか。かつてとある教団の広報担当は、被害者はこっちの方だと訴えた。問題のすり替えが実に上手だった。なんだかそんな風に目糞、鼻糞を笑うかのようになってしまっているのが頼りないと思うのは俺だけだろうか。

『振り込め詐欺撲滅キャンペーン』実施中! 私たちは頑張ってマス。だから受信料、自動振り込みでよろしくネ! 

なんてコマーシャルが入った方がむしろ自然だろうに。いったいどっちが振り込め詐欺なのだろう。合法である以上、もちろん軍配は公営放送に上がるのだろうが。


依頼人は今をときめくパラダイスグループの総帥、玉造秀(48歳)だった。表沙汰にはしたくないという配慮から、うちのような弱小探偵事務所に白羽の矢が立ったのだ。

その依頼とは……ひとり静かに質素な暮らしをしていた彼の年老いた母親が振り込め詐欺グループに引っ掛かったことが発端だった。母親の玉造美江(78歳)は△△市の閑静な住宅地の中、ひっそりとあの世へと旅立った。詐欺グループに虎の子の財産をすべて奪われてしまい、息子や親族達への申し訳なさから自ら死を選んだのだった。

玉造秀は泣きながら訴えた。これからようやく親孝行ができると思っていた矢先のことだ。最愛の母親を奪われたことによる復讐のための依頼なのだ。

警察の動きは鈍かった。奴らの手口は実に巧妙だ。足跡を残さないどころか、全く気配を感じさせないほどに熟練している。もっとも、警察が奴らの尻尾をまるで掴めないことや、掴もうとしないことには深い理由があるのだった。

それはいずれ俺たちが、とてつもない大きな抗争に巻き込まれる羽目となる惨劇の幕開けだった……のだが、それはおいおいと話していこう。


依頼主から預かったキーを手に、俺たちはまず玉造美江の家へと向かった。すでに警察の現場検証はとっくに終わり、事件性のない自殺案件と決めつけられていた。所在地はC区内ではあったが、○山の高級住宅街からはやや離れた奥地に建っていた。古い藁ぶき屋根の小さな平屋だった。

俺とナカムラさんは驚いてしまった。パラダイスグループの創始者である玉造昌秀(故人)の妻であり共同経営者でもあった女傑が、まさかこのような粗末な家で余生を送っていたとは。

中に入るとさらに驚いた。そこには昔ながらの囲炉裏と火鉢が置いてあり、板間の上には小さな箪笥とちゃぶ台、黒電話。他には本当に何にもない。いさぎよいにもほどがあるというような家だった。思わず某漫画に出てくる豪傑、水○のおばばの姿がよぎった。

「栄華を極めると、逆にこんな暮らしに行きつくモンなのかねえ……」ナカムラさんの言葉に俺はうなずくより他なかった。

天井から輪になったロープが下がっていた。これで首を括ったのだ。何を思う無念の死であっただろうか。俺たちはそこで手を合わせて黙とうをささげた。それにしても死に方からして潔いとも言える。

しかしながら、これでは何の手がかりも得られないだろう。どこをどう探したって何もないのだ。しかも警察だって馬鹿じゃない。捜査員が隅から隅まで探っているだろう。さあどうしたものか。

ナカムラさんは家の中心にどかっと座り込んだ。そして辺りを見回した。

「信頼できる筋から聞いた話しなんだけどね。今でも殺人事件が起こると、現場に捜査員が泊まり込むそうだよ。特に犯人の目星がつかない案件の場合は必ず。それが実に役立つらしい」

ああ、前にもそんなことを聞いたことがる。本当なのだろうか。

「殺された人になり切るとか?」

「そうじゃないよ。つまりほら、夢枕ってやつ。殺された人が枕元に立って殺した犯人を教えてくれるんだ」

「本当なんですかね」

「実際にそれで解決した事件てのはいくらでもあるんだよ。証拠は後でもっともらしくくっつけりゃいいからネ。犯人ありきならばいくらでもでっち上げることができるし」

「それってどうなんですか?」

「さあて……世の中、常識や眼で見えることだけが全てじゃないからネ」

 俺はナカムラさんの眼に狂気のようなものを感じてしまい、思わずゾクリとのけぞった。背中に冷たい汗がつたうのだった。

「それが数々の冤罪を作り上げてきたひとつの原因かもしれないんだけどネ」


 世の中のことは知れば知るほど、ますますわからなくなるものだ。



     続く





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