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逃亡馬券生活   作者: 狂死狼
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第7章  さまよえる者たち 15

「俺は殺人者だ。行方をくらませ裏街道を歩き、人目を避けて生きるしかない。投資馬券はいまいちだが、共犯者優香とのあらたなるサバイバルの日々を綴ってゆく」


(2)  交差する女 その4



カオリもそれ以上は何も語らなかったのだが、花蓮はさらに押し黙ったままだった。何も訊いてもわからないと答えるだけだった。本当に10歳ぐらいの子供と話しているとしか思えないのだ。俺は彼女の秘密を知っていた。職業柄、簡単に知ることが出来たのだ。だがそれをここで話すことは出来ない。少なくとも彼女の前では絶対に。

「ふたりは今、どこに寝泊まりしてるの」当然ながら一番肝心なことを訪ねた。

「信頼できる友達のとこ。同じ仕事仲間」カオリが答えた。「もっともほとんど男と寝泊まりだもの。昼間の休憩に使うくらい」なるほどな。それを聞いたチャンゴが言った。

「ならさ、これから俺のとこに来いよ。何もしないし。金も払うし」俺はびっくりだ。こいつ、なかなか言うじゃないか。

「いいよ。別に」カオリはあっさりしたものだった。いや、完全にカオリとは違う女だ。なぜなら俺に気がねひとつないのだ。

「花蓮さんは?」

「行くとこなんかないの。その日その日……違う相手とどこかに泊まるの」下を向いて震えた。

「じゃあ俺のところに来いよ。優香という彼女と同棲中だから。安心していいよ。狭いけどさ」俺はカオリを見ながら言った。カオリは煙草をバッグから取りだして旨そうに吸った。俺のことなど眼中になかった。どの口が言うんだと思うがやはり何だかさびしいものだ。

 1時間ほどを過ごして俺たちは外へ出た。もう真夜中だ。といってもあと1時間もすれば空が白み始めるだろう。夜はどんどん短くなっている。チャンゴとカオリはそれが商売上のかりそめであれ、腕を組んでくっついた。

「それじゃ、明日。ていうかもう今日だな」そういって別れる間際、突然、花蓮は走りだした。

「じゃあね。オジさんたち、オネエさん。ばいばい」そういって飛び出したのだ。

「おい、待て。待てってば」

 俺は必死に追いかけた。しかし、とても追いつけはしなかった。ひと区画ほど離れると、花蓮は路肩に停まっていたタクシーに飛び乗った。間髪をいれずにタクシーは急発進した。俺は肩で息をしながら立ち止まってそれを見送った。俺を悪者にしたてて運転手をたきつけたのは明白だった。そうか。怯えたフリは芝居だったのだ。子供のフリもあるいは芝居なのかどうか。俺にはわからなくなってきた。チャンゴ達の姿はすでに視界にはなかった。

「俺はいったい何を……」なんだかとても馬鹿馬鹿しくなってきた。


次の朝、チャンゴに電話を入れると、カオリは朝方いつの間にか姿を消したということだった。まあ、しかしそれは想定内のことだ。

「シカケは?」

「ああ。うまくいったよ」

「そうか。じゃあ今日はまず先生のところに行ってみよう」

「わかったよ」

「じゃあ、夕方」

 チャンゴは冴えない声だったが、それでもふたりきりの数時間を過ごせたことに嬉々とした様子も見て取れた。それは今のところ、金を介した関係でしかないのだが。二人が上手くいけばいいなと、 今の俺は完全に思っている。そのことも何だかおかしなことだ。

優香には寝ぼけながらではあったが昨夜の出来事を全て話した。呆れるやら感心するやら彼女は彼女なりにカオリと花蓮のことを心配した。それと同時に花蓮については疑いの目で俺を見た。女の勘は恐ろしい。お前が思うようなことは神に誓って絶対にない、と言っておいた。けれど信じてはいないだろう。 

まあ、そんなことより医師の専門家にこの異常な状況を聞いてみる方が先決だ。

 その日の職場、岡林探偵事務所はいつもとまるで違う雰囲気だった。俺は寝不足で受け持った仕事を適当にこなすだけで精一杯だったが、陳さんと竹下さんが異常なほどに意識しあっているのか、おかしな空気が事務所内に漂い苦痛なほどに沈黙が続くのだった。


 俺とチャンゴは午後5時に待ち合わせて、ゆい吉先生の待つ病院へと急いだ。

ゆい吉先生はいつもの通りにひょうひょうとしていた。

「あのカオリさんがそんなことに……まあ、そう言うこともあるかもね」

「そういうことってどういうことなんですか?」チャンゴが待ちきれない様子で訊いた。

「先祖返りってやつかな。強烈な脳への刺激、あるいはダメージが引き金となってご先祖様の魂が乗り移った……ある意味、錯覚を引き起こす病気といえば病気なんだよね。でもね、それはきっと壊れて崩壊する寸前の脳を、というよりか人格を、ご先祖様がのり移って助けようとしているってことかも知れないよ。オカルトだと思うかもしれないけれど。僕はそう思うね」

 ゆい吉先生は今日は網タイツを覗かせてはいなかった。息子さんはその後どうなったんだろう。訊くのははばかれた。それでも俺は花蓮のことを訊かずにはいられなかった。

「では、もうひとりの彼女。花蓮というんですけど。どんどん、会うたびに心が若返っているようなんですよ。30代半ばくらいの女性なんですけど、初めに会った時は時分は中学生だと言ってました。昨夜は小学生に。ただ、彼女には過去に重大な過ちを犯した経験があって。それが原因なのだとは思うですけど……」

「どういう経験なのですか?」

俺は、意を決して彼女の過去をゆい吉先生に話し始めた。



     続く。



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