第2章 逃亡者の休息 12
「俺は殺人者だ。行方をくらませ裏街道を歩き、人目を避けて生きるしかない。投資馬券が唯一の生活の糧だ。生きるか死ぬか、あるいは捕まってしまうのか……究極のサバイバルの日々を綴ってゆく」
(11) 呪縛 その6
「た、助けてください……ごめんなさい。僕には子供が、まだ4歳の息子が……ホントにすみません、もう、カオリさんには二度と、絶対に。その……お願いですからあ……ヒィィ」
俺は何度も切れ味の悪い刃先を、オカモトの頬に擦りつけた。
オカモトの悲痛な叫びが、なんだか耳に心地よく聞こえていた……
もちろん、初めから殺すつもりなどない。なんだか俺もずいぶんと役者になったものだ。自分で自分が恐ろしくなる。
「だったら、二度と俺の女に近づくな。いいか、俺はお前の居場所もつきとめた。もしも彼女に何かあったら絶対にお前を……それとお前の家族もただじゃすまねえからな。なあ、わかったか?」
「は、はい。わかりました!」
よし。これで大丈夫だろう。
これでカオリに、少しは恩返しが出来たことだろう……だからゆるしてくれ。
『呪縛の渦』から、ようやく逃れることが出来る……そんな気がする。
カオリ……俺には到底、あなたを愛する資格などない。
天地がいくらひっくり返ったとしても、俺にはそんな資格などないんだ。俺はつまるところ、あなたの父親を殺した。そんな馬鹿な男なのだから……。
戦国時代の武将ならばこんな状況などあるいは日常茶飯事だったのかもしれない。けれど……
いや……すんません。俺は家康でも秀吉でもないので。この辺でやめておきます。
そして俺は、この閉鎖的な空間『イマジン・ハウス』へと戻ってきた。
「何か困ったことでもあったのかい?」
声を掛けてきたのはミウラだ。ドリンクバーでコーヒーを入れている時、決まって彼はそばに寄ってくることが多かった。
「何もないですよ……ところで、ゴルゴ13は全部読まれたんですか?」
「ああ。アレね。面白かったわ。でもね、ワイにはちょっと難しいかな。国際的なことは良くわからんもので」
「そうでしたか……」
どうやら、彼はプロの方ではなかったようだ。けれど、まちがいなく彼も『どうかしている者』たちのひとりだ。
いつかきっと、俺はこの男とやばい運命を共にする、なぜかそんな風に思えた……。
さて、最後の秘策とは?
それはゲスな男の、ある意味犯罪ともいえる行為だ。
できれば避けたかったのだが。
つまり、所持しているクレジットカードの現金化ということだ。
事件を起こした後、俺は慌てて逃げる途中で所持するカードを出来るだけ現金化しようと図った。キャッシング枠全てを現金に換えたということだ。
ただ、カードで現金化する策はまだあったのだ。ネットを徘徊しているうちに、だいたいが理解できた。つまり違法ではあるが、キャッシュカードの『ショッピング枠』で『買い取り価値の高い商品』をまとめ買いし、金券ショップなどで換金するという方法だ。
大きな声では言えないが、この非合法な錬金術で、俺はとにかく最終の資金として、84万4870円をゲットできた。
この重要な命の金を、どう運用するか。
という話は、また次回に。
そんなことを考えていたところ、俺の携帯電話がなぜか『カオリからの着信』で埋め尽くされていた。
続く




