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逃亡馬券生活   作者: 狂死狼
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第7章  さまよえる者たち 9

「俺は殺人者だ。行方をくらませ裏街道を歩き、人目を避けて生きるしかない。投資馬券はいまいちだが、共犯者優香とのあらたなるサバイバルの日々を綴ってゆく」



(1)  消えた女 その9



 あの晩、北川を尾行していた時に偶然、依頼人の小暮が現れた事によって我々は救われることになった。陳さんの読み通りとなった。

 追い詰められた小暮は我々の仕事にクレームをつけてきたのだ。素行不良のひとつも出ないのはおかしいちゃんと調査したのかと言いがかりをつけてきたのだ。

 北川は若い頃、手がつけられないほどの不良だった。不良グループのリーダーとなって悪さをしていた時期があったのだ。それが花蓮と知り合い結婚することで真面目な人間へと極端に生まれ変わったのだそうな。その過去を知っていた小暮は、北川が叩けば埃が出る人間と睨んだ。夜な夜な外出している噂を聞きつけての依頼だった。もちろん、表向きは単なる取引先銀行担当者の身上調査だ。不正融資を取り付けるためではない。あくまで表向きはだが。

 結局、元妻と逢う以外は安酒場で一人おとなしく飲むのが日課だというだけで何も悪さはしていなかったとの調査結果に彼は激怒した。

「冗談じゃない。こっちは高い調査費を払わされてるんだ。でっち上げでもなんでもヤツの弱みを暴けよ」小暮は本性をあらわした。必死の形相だった。事務所の応接間での光景だ。

「小暮さん、そんなこと出来る訳ないでしょう。私どもは健全な興信業を生業としている者です。そんな犯罪めいた工作をするのはまた別の業種の仕事ですよ」陳さんは弱り切った顔で淡々と答えた。

「頼むよ。なんとかしてくれないか。もう後がないんだ。業界きっての老舗である我社が倒産の憂き目に遭うんだ。」

「出来ないものは出来ません」

「そ、そんなことを言うんだったら。わかった。残りの金は払わんぞ。しかも、ネットにあることないことを書き込んで、お前たちをさらし者にしてやる」

 もう、こうなると無茶苦茶な人だった。

陳さんは静かにあの晩のホテルへ入る中年カップルの写真を出した。そしてレコーダーをテーブルに置いて録音した声を聞かせた。小暮のお楽しみの様子がバッチリと示された。

「な、なんだこれは。何を調べたんだ、あんたら」小暮は顔を真っ赤にして目を泳がせた。

「申し訳ありませんが、あなたが無茶苦茶なことをおっしゃるから仕方なく出したまでです。これが表に出るのがお嫌ならば、どうか契約通りにお支払いを済ませていただいて、もう二度と弊社には関わらないでくださいマセ」

「そ、そこまで言うか?」

「この女との関係を続けるために今の肩書や収入を維持したいだけなんでしょう、あなたは。お話しするほどにあなたからは会社に対する恩義や忠誠心が全く感じられない。そんなだからこそ、今の窮状を招いたのではないのですか」陳さんは恐ろしいほど冷ややかだった。

「う、うるさい。もう結構だ。払えばいいんだろう、払えば。こんなインチキ事務所、二度と来るか」

 小暮は観念した。

 何とも後味の悪い結末となった。

 しかし、本当のことを言えば、北川には実は何人もの女がいた。中には人妻との不倫関係もあった。だが、小暮のような人間のために、不正融資を目的とした犯罪行為への加担は出来ないと判断したのだ。正確な調査結果を出さずに終わらせたかったのが本音だ。

 俺は陳さんの調査能力と判断力に舌を巻いた。オカマ疑惑は残っていたが。


 ただ、それよりも俺は調査の中で浮き彫りになったある事実が、花蓮の深い哀しみと絶望を浮き彫りにしたことで、どうにもいたたまれない気持ちになっていた……。




     続く。




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