表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逃亡馬券生活   作者: 狂死狼
129/259

第7章  さまよえる者たち 3

「俺は殺人者だ。行方をくらませ裏街道を歩き、人目を避けて生きるしかない。投資馬券はいまいちだが、共犯者優香とのあらたなるサバイバルの日々を綴ってゆく」



(1)  消えた女 その3



チャンゴが襲ってきた。ジャックナイフを手に、ものすごい形相で迫ってくる。俺は焦った。逃げようとするが逃げられない。何だか足が空回りしたかのように前には進めないのだ。這いつくばってみても同じだった。あぶら汗があとからあとからにじみ出てくる。チャンゴが迫る。明らかに殺意を抱いている。

ジャックナイフが俺の背中に突き刺さった。

「う、うわあああ」悲鳴を上げたつもりなのだが、不思議に声が出なかった。痛みもさほど感じない。背中がひゅっと浮いたようになって、次の瞬間すとんと俺の身体は落ちた。どすんと音がした。

「いってええ」ようやく痛みがあとからやってきた。それは、床に打ちつけた頭と肘の痛みだった。

 辺りを見回した。

「どこだ、ここは……」

 散らかり放題の汚い部屋の中だった。ふと、隣りのベッドを見るとチャンゴがイスラム教徒のような格好で眠りこけていた。

「そうか。チャンゴの部屋か……」俺はソファの上で眠っていたところを転げ落ちたという訳だ。妙にリアルな夢だった。あぶら汗がまだ乾かずに背中を伝ってくる。 

昨夜、飲み過ぎてここにたどり着いたという訳か。それにしても、散らかっている割には何もない部屋だった。チャンゴの孤独や苦しみが伝わってくるような息苦しい部屋だ。俺は一晩この部屋に厄介になりながら、どうしようもない切なさを感じていた。


その日は二人とも昼近くまで惰眠を貪り、午後からは市内をくまなく探しまわった。

やはりクルマがあると便利だ。いずれ自家用車を所有したいものだが逃亡生活では無理だろう。はたしていつまで探偵屋に雇われていられるだろうか。嫌いではないと思いつつある仕事だったが、状況によってはいつでも逃げる必要があるのだ。足がつきやすいことは避けるべきだ。それにしても投資馬券がさっぱりだった。上手く職につけたからこそ何とか生活が出来ているが、そうじゃなけりゃ今頃は野たれ死んでいたことだろう。人の縁とは不思議なものだ。こんな俺が他人に助けられるなんて。できればいつまでも勤めていたいものだが。

それにしてもカオリの行方はようとして解らず仕舞いだった。次第に俺達の頭の中にはひとつの結論が生まれつつあった。カオリはもう、この街にはいないのではないか。おそらく△△市へ戻ったのではないだろうか。きっとそうに違いない。

だとすれば、それはいったい何を求めてなのか。ひょっとして俺を……いやよそう。俺のことなど全く記憶から消えているのだ。たとえ△△市へ向かったとしてもそれは何か別の目的かもしれない。

「もしそうだった場合、お前はどうする?」俺はチャンゴにたずねた。

「決まってる。△△市にもどるよ」

「だよな。そうするべきだ」

その時のチャンゴの眼は夢の中で俺を殺そうとしたあの眼の光を宿していた。何故か俺は愉快な気持ちになった。そうかわかった。もしも、カオリが俺に対しておかしな行動を取ったとしたなら、その時は俺が死ぬ時なんだな。チャンゴよ。よし、その時はバッチ来い!

俺とチャンゴは△△市での再会を約束して、その日の夜に別れた。


俺は優香が待つ部屋へとクルマを飛ばした。3時間のドライブを経てようやくたどり着いた。

部屋は真っ暗だった。優香はいない。変だな。今日は非番のはずだが……。

勤めているスナック『ルージュ』に電話をしてみた。

千尋ママは言った。「優香ちゃんは来てないわよ。それより、ヒマなら飲みに来てよ。コッチもヒマなのよ」


じわじわと俺の中で何かがはじけそうになった……。



    続く





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ