第7章 さまよえる者たち 2
「俺は殺人者だ。行方をくらませ裏街道を歩き、人目を避けて生きるしかない。投資馬券はいまいちだが、共犯者優香とのあらたなるサバイバルの日々を綴ってゆく」
(1) 消えた女 その2
「こっちではどうしてるの」
「いやまあ。ぼちぼちさ。派遣で工場の手伝いだったり引っ越し屋だったり、警備員やったり。色々さ」
チャンゴは血の気を失くしたように意気消沈していた。気が気ではないのだろう、酒の進み具合もペースがひどくゆっくりだ。
昼間は二人で宛てのないカオリ探しに奔走した。
彼女の足が向きそうなところはしらみつぶしに行ってみた。今回俺は、△△市から軽自動車をレンタルしてここまでやって来ていた。それがまさか、カオリ探しに役立つとは思ってもいなかった。レンタカーにしたのは、万が一のことを考えてだ。いち早く逃げるには、公共の交通機関よりもクルマの方が間違いなく足が速い。ただし、レンタカーは危険と隣り合わせだ。見つかればすぐに足がつく。
病院を出て実家に戻り簡単に身支度をした後のカオリの行方は全くと言っていいほどわからなかった。H道○○市。小さな市ではあるがそれなりに広い。35万人近い人口の中から探し出すのは容易ではなかった。そもそも彼女の交友関係だって、俺達は何も分からないのだ。探偵といっても俺のような新米にはとうてい見つけ出せるはずもなく、雲をつかむような話だった。
日もくれて途方に暮れた頃、俺たちはクルマを駐車場に入れて繁華街へと向かったのだった。
俺達は安いチェーンの居酒屋で乾杯した。
「意識が戻ってからのカオリはどうだった?」
「元気は元気だったよ。でも、自分が誰なのか。ここがどこなのか。どうしてこうなったのかとか含めて、俺のことも狂さんのことも全くわからない状態だった」
「そうか」
「だけど時々、夢を見るような顔してさ。微笑みながらふわふわと宙を見ている時があるんだ」
「え?」
「誰かに抱かれているような、幸せな顔してさ」
「だったらそれこそ、お前の特殊能力でカオリが何を思っているのかズバリわかるんじゃないのか」
「ああ、あの能力ね。あれはさっぱり感じなくなった。オレも大人になったのかも。馬券親父の買い目も全然感じなくなった」
「そうなのか。そういや最近、競馬は?」
「うん。日曜日のメインを毎週1000円だけ買ってる。それ以外、全然興味もない。オレはただ……」
「カオリのことが一番なんだろう」
「いや。そんな……」チャンゴは酒の酔い以上に顔を赤らめた。
「俺のことが憎いのも良く分かる。俺はカオリを捨てて優香と今こうなってる。ふざけたことかもしれないが優香と俺は……」
「わかってるよ。羨ましい関係だよ。心からそう思う。そんな風にオレたちもなれたら……」
俺達が羨ましい関係だって? いったいどこがだ。でもまあ、そうかも知れない。チャンゴにしたらそんな汚れた絆だって、カオリとの間にあって欲しいものなのだろう。
俺は思い切って直球を投げつけた。それは本心でもあった。
「なあ。俺を殺したいならいつでも殺していいぞ。俺はチャンゴに殺されるなら本望だ。何も恨みもしない。でもな。そのあとのことは覚悟しろよ。俺みたいになるんだからな。ずっと世間から逃げることになるぞ」
もはやどうでもいいことだったが、あえて俺は口にした。するとチャンゴは、みるみる身体を震わせながら言った。
「じゃ、オレはどうすればいいっていうんだ」
俺は何も答えられなかった。
彼はそれまでのスローペースを打ち破って一気に飲み始めた。日本酒の冷やを何度も何度もおかわりした。
やがて、静かに言った。
「狂さん。あんたを殺すなんて。そんなこと。このオレが、オレが……出来るわけがないよ」
チャンゴは泣き出した。
そんな彼を慰める言葉を……俺は持っていなかった。
続く




