第6章 競馬狂の詩 37
「俺は殺人者だ。行方をくらませ裏街道を歩き、人目を避けて生きるしかない。投資馬券が唯一の生活の糧だ。共犯者優香とのあらたなるサバイバルの日々を綴ってゆく」
(4) 大脱走
その10
「さあ、勝敗はもう決しましたね、お父さん。おとなしくひき下がってもらいましょう」
鉄三郎はじっとこらえていたが、堪え切れずに口を開いた。
「お前たちの真の目的とは何だ。いったいこれからどうするつもりだ」
「ふふふ。教えてあげましょうか。私はここに巨大なアミューズメント施設を作り上げる。全国の支部もいずれ右に倣えだ。やがては地下に巨大な競馬場を作るのだ。表向きはギャンブル依存症を解消するカリキュラムやアトラクションで依存症撲滅に取り組む。その一方で依存症患者を強力に生み出す巨大賭博施設を作るのだ。そうすることで巨大な永久循環ループができ上がる。人類の50パーセントを廃人へと追い込み、金、財産、労働力、人間の希望、あらゆる全てモノを奪い取るのだ。そして私は神になる。真の神だ。どうです? あなたごときが成しえる仕事ではないでしょう。おほほほほ」
元気は甲高い声で高らかに笑った。それにしても、競馬場をわざわざ地下に造る意味はよくわからない。どうせなら青空の下でやって欲しいものだ。
女王、木原元気。恐ろしい悪の権化が今まさに誕生しつつあった。
「お前という奴は……そんなバカげたことが許されると思っているのか。そうはさせない。絶対に止めてやる」
「ほほほ。今のあなたに何ができるというの」
鉄三郎は舞台下に駆け寄った。そこにある引き出しを開けた。中には剣の柄のようなものがごろごろ入っていた。
「あ、何をする!」元気は慌てた。かまわず鉄三郎は剣の柄のようなものを俺たちに投げつけた。
「みんな。それを持て。こいつで闘え。奴らの陰謀を止めるんだ!!」
鉄三郎に渡された柄を握り締めると、レーザー光のような明るい光を放つ鋭い剣先が現れた。「これは……いったい?」
「ホースの魂の剣、ソウル・ソードだ。お前たちはホースに導かれし者ジエタイなのだ」
「なんだそれ自衛隊みたいな。ソウルフード?」
「ソウル・ソードだ」
「おのれ鉄三郎。われらの邪魔立てをするか、片腹痛いわ」
元気と四天王もソウル・ソードを手にした。
剣と剣の戦いが開始された。いわゆるチャンバラだ。
不思議な事に身体は軽やかに浮き上がり、3メートルほどもジャンプすることが出来た。通常の10倍は反射神経が鋭くなり、相手のソウルフード、いやソウル・ソードを軽々と除けることができるのだった。
「なんだ、これは」
「ホースの力だ」
5人対6人の壮絶なチャンチャン・バラバラは果てしなく続いた。
ミウラはホクトと対決した。睨み合う二人。やがて……二人はソードを投げ捨て、抱きしめあってフレンチキスをかわしていた。べロを出し入れするやつだ。ちなみに世間一般でいうところのフレンチキスとは、バードキッスのことではなかろうかと思われる。テレビで官房長官に、この誤りを全国に向けて訂正してもらいたいものだ……
おっと、そんなことを考えている余裕などない。俺の相手ナリブーは、なかなかにひつこい。かわしてもかわしても襲いかかってくる。ウサミさんはシンボリと闘っている。迫力のある殺陣だった。 その他くんずほぐれつ滅茶苦茶だった。
舞台中央では鉄三郎と元気が闘っていた。一進一退を続けている。
「わしはお前をこんな風に育てた覚えはない」ソウル・フードが火花を散らした。いや、違ったソウル・ソードだ。
「うるさい。馬鹿親父。結局はギャンブル狂の駄目親父のくせに」
「わしは……競馬を愛し、母さんを愛し、お前を愛した。組織の仲間たちも。だが、お前のやり方に愛などない!」
次の瞬間、鉄三郎の一太刀が元気の肩へ切り込んだ。
「きゃあー、い、痛い。何すんのよう」
「あ、いや。す、すまん。よけると思ったのに……だ、大丈夫か」
それを見て、舞台中央に全員が集まってきた。
「おい、大丈夫か。しっかりしろ。傷は浅いぞ」ナリブーが真っ先に近寄った。
木原元気はナリブーに抱きかかえられながら、次第に意識が遠のいてゆくように見えた。
「ああ。これが……運命だったの……かも、知れない」
力なく元気がつぶやいた……すると。
ゴゴゴゴゴゴゴッと、地面を揺さぶるような轟音が聞こえてきた。そしてガラガラと音を立てて周囲の壁が崩れていった。天井もそのままではいられなかった。いや、それよりも床、地面が先だった。俺たちの足元が次々と割れて粉々になり、崩れていった。
「うわああああー」
「だから、地下を掘ったらダメなんだぁぁ」
全員もれなく、奈落の底へと落ちていった。
続く




