第6章 競馬狂の詩 25
「俺は殺人者だ。行方をくらませ裏街道を歩き、人目を避けて生きるしかない。投資馬券が唯一の生活の糧だ。共犯者優香とのあらたなるサバイバルの日々を綴ってゆく」
(3) 巨大な悪の組織
その8
岩元鉄三郎は、ただうなだれていた……。
この親父が二重スパイだって?
考えてみると、優香が勤めるスナックで見かけた時からおかしな老人だった。あのクスリ中毒の迫真の演技はなかなかのものだったし、飲み代の一万円程度をケチるためにやったにしては大げさ過ぎる。最初から俺たちを監視するために? だとしたらそれもおかしな話だ。あの時点では岡林探偵事務所が道場に関心を持つことなどなかったのだから。いや待てよ、道場の広告チラシをわざと俺に見せつけて関心を持つように仕向けた? だとしたら相当したたかな親父だ。もし問い詰めたところで本当のことを話はしないだろう。
「明日からは採掘現場で働いていただく」そういった木原元気の真の目的はなんだ?
曳きずられるように宿舎へと向かう間、俺たちは後ろ手に縛られたままだった。鉄三郎も同じだ。こいつが二重スパイと言うのはどうやら本当なのだろう。つまり、これまで俺達の動きを全て木原元気に報告していたということのようだ。
それがいったいどういう成り行きかはわからないが、幹部のナリブーを殺してしまったことで俺たちと同等の扱いを受けることになった、ということなのだ。そして俺たちはここで、下手をすると死ぬまで働かされることになるのだ。
これは本当にマズイことになった……。
幹部たち6人に囲まれながら俺たちは鉱山内の施設を連行された。頑丈な鋼鉄製の壁で仕切られた幅3メートルくらいの通路だった。かなりの距離を歩かされた。通路の壁にあるのぞき窓から鉱山内部が散見された。かなりの人数が採掘に従事しているのがわかる。下手をすると何千人といった単位だろう。みな作業服にヘルメットをかぶり、長靴に手袋、マスクをしている者が大半だった。みな顔色は良くなかった。フラフラと足取りがおぼつかない者も多く見受けられる。つるはしやスコップに『ネコ』と呼ばれる一輪車を回したりしている。重機が数十台あり稼働はしているもののかなり古い型ばかりでガタピシいっている。酷く原始的な工事現場だった。
「これは……酷い」思わず口に出た。
「しゃべるなッ」ルドルフが命令口調で言った。
「しかし、こんな劣悪な採掘現場が今時あるかよ……」ウサミさんも同様の感想だった。
「金を掘ると言うのは繊細な仕事だ。原始的な作業が実は最も効率がいい」ディープインパクトがそう説明した。
「だからと言って強制労働はねえだろう」ウサミさんが抵抗を示した。
「あんたたちは道場、いや我々の総合商社『アルメティオ・メッツ』の敵対勢力だ。命があるだけありがたく思え」ホクトベガが睨みつけてきた。女のくせに相当な威圧感を備えている。
のぞき窓(監視窓?)を眺めているうちに何人かの捜索者の姿が目に入った。
やはりここに隔離されていたのか。待ってろよ。必ず助けだしてやるからな。だが、いったいどうやって? どうやって彼らを一人一人助け出すと言うんだ?
いずれ国家組織が動くことになるだろう。いずれここに捕らわれている連中全員を助け出さなければこいつらはますます悪事にせいを出すことになるのだ。
俺たちがここから無事に脱出できなければ、それもいつになるものやら。
宿舎に到着した。
そこには区切られた20畳程度の広さの部屋がいくつも並んだ巨大な宿泊施設だった。中にはきれいな寝具も用意されており、地上にある道場のタコ部屋よりは多少マシだった。案内された部屋にはミウラが後ろ手に縛られたまま座っていた。
ミウラよ、お前もか?
続く




