第6章 競馬狂の詩 23
「俺は殺人者だ。行方をくらませ裏街道を歩き、人目を避けて生きるしかない。投資馬券が唯一の生活の糧だ。共犯者優香とのあらたなるサバイバルの日々を綴ってゆく」
(3) 巨大な悪の組織
その6
「殺人容疑でお前たちを連行する」
俺たちはそれぞれ鍛えられた若い幹部4人がかりで体をホールドされてしまい、見動きを取ることも出来なかった。荒縄のようなロープできつく縛り上げられた。
ウサミさんは怒鳴るように鉄三郎を問いただした。「本当にあんたが犯人なのか? え!」返答次第では、完全に縛られる前にひとあばれしようという魂胆に違いなかった。見ると、ウサミさんのこぶしに力がみなぎっていた。
けれど、鉄三郎は何も答えずにただうつむいて首を横に振った。そういえば確かに昨日の深夜、鉄三郎が寝床から立ちあがって40~50分戻って来なかったことは覚えていた。彼はいつもそうだった。腹が弱いとかで、真夜中にトイレに立つのが常だった。だから特に疑いもしなかったのだが……その時間、いったい何をしていたのか……もっと突っ込んでおけば良かった。今となってはあとの祭りだが。
「なんでだよ。なぜそんなことを……」ウサミさんは完全にタイミングをはずされてしまい、ただ任せるままに縛られるばかりとなった。俺もこの時はすでに観念していた。
彼らの縛り方は熟練されていてきつく、適度にゆるくもあった。
「わッ。何をする」俺は思わず声が出た。縛り終わると奴らは、厚めの布で目隠しをしてきたのだ。抵抗しようとも無駄だった。
「さあ歩けッ」シンボリルドルフの威圧感たっぷりの声が聞こえてきた。
「お前たちは当道場において著しく風紀を乱す行為を平然と行った。故にそれ相応の償いをしていただく」そう言った……。
グリーンルームを出てゆく時、周囲の修行者達が固唾を飲む雰囲気がまざまざと伝わってきた。見えないから、こそなおさらだった。
そして俺たちは迷路のような廊下をしばらく歩かされた。
(ここはどこだ?)
やがて行き止まりのような場所に来るとドアが開く気配がした。
「ほら、入れッ」俺たちは狭い箱の中に押し込められた。
え? たぶんこれはエレベーターだ。おかしい……今まで探ったなかで道場内のどこにもエレベーターなどなかったはずだ。ここはいったいどこだ? 狭い空間の中、俺たち3人と幹部6人は体を密着させるようにして乗り込んだ。
エレベーターは俺たちを下へ下へと確実に移動させた。どれくらい深いところまで落ちたのだろう。やがて静かにエレベーターは止まった。扉が開くと、外へ出るようにうながされた。何だか埃っぽい嫌なにおいが漂う、そんな空間が広がっていた。確かに広く感じた。
工作機械がガシャンガシャンと動く派手な機械的な音が聞こえてくる。
それにしてもここの気温はずいぶんと高く感じられる……次第に汗ばんでくる。
「そのまま歩け!」シンボリ・ルドルフの容赦ない声が響き渡った。
(どこなんだ、ここは?)
やがて俺たちは閉鎖された空間の中へと誘導された。そこは空調が効いていて涼しい部屋だった。そこでようやく目隠しの布が外された。体は縛られたままだ。
そこには木原元気の姿があった。
続く




