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逃亡馬券生活   作者: 狂死狼
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第6章  競馬狂の詩 22

「俺は殺人者だ。行方をくらませ裏街道を歩き、人目を避けて生きるしかない。投資馬券が唯一の生活の糧だ。共犯者優香とのあらたなるサバイバルの日々を綴ってゆく」

(3)   巨大な悪の組織



  その5


 ミウラよ。これはお前の仕業なのか?

……そうは思いたくない。だが、こんな状況で姿を消すなんてことはあり得ない。犯人じゃないとしても、何らかの関与がどうしたって疑われる。奴はいったいどこに?

 重苦しい空気が流れる中、ここグリーンルームの中では誰もが『パワード』を唱えたり、教本を広げたり、座禅を組んだりといった修行にはげんで見せていた。といってもうわべだけであるのは明白だ。こそこそと周囲を窺いながら話している者も多かった。

 そんな中で俺たち3人は慌ただしく対策を練った。いかにして、この状況から捜索者を救い出すことができるというのだろうか。いまだに彼らの行方が全くわからないままなのに、こんな事件が起きるとは。

俺たちの計画は暗礁に乗り上げた。

まずはこの事件の成り行きを、もうしばらく見守る必要がありそうだ。うかつに動いて上手くいく可能性など、ただでさえ10%もないと見ていた計画の成功率をはるかに下回ることになるだろう。

「これからいったいどうする?」俺は周囲の耳に気を配りながら小声で言った。

「どうにもならんな。まったく予想外の事件だ。しばらく……様子を見るしかない」ウサミさんだ。

「混乱した今がよ、逆に好機じゃないのか。ぱあっと突き進むってのもひとつの手だ」鉄三郎はいつになく緊迫した顔で意見した。

「よせよ。そんな生やさしい状況じゃないぞこれは。どうしたってどこもかしこも警戒が強まるだろうが」ウサミさんがそう言って反論した。

「だからといって、ただ指をくわえて見てはいられないぞ」俺も口を挟んだ。

「あわててしっぽを掴まれたら敵の思うつぼじゃないか。もっとよく考えよう。計画のや練り直しだ」ウサミさんは別人のように冷静だった。

 俺は焦っていたのかもしれない。苦痛だらけのこのたいくつな道場の暮らしに嫌気がさして早く逃れたかったのだ。探しても探しても依頼者の家族が見つからないことも苛立ちの原因だった。その上、事件とともにミウラが姿を消してしまった。どうにもならない苛立ちだった。

「突撃だ。玉砕だとしても……なあ、一か八かの正面突破で……」

そういう鉄三郎の顔は青ざめ小刻みに震えていた。言うほどに口調は勇ましくはなく、むしろ弱々しく聞こえた。

俺はその時、鉄三郎が何か隠しているのではないかと疑念に駆られた。

ともかくそれ以上の打開策を何も見つけられず、3人は押し黙ってしまった。

 本来なら今日は土曜日、中央競馬の開催日だ。受講費をかけての進級試験が行われるはずだった。今となっては誰も競馬のことで会話したり予想をしている者はいなかった。四天王のひとりが殺されたこの状況で試験が行われるとは到底思えなかったからだ。

え? なんだ。ふと、疑念が湧いてきた。本当に今日は土曜日なのだろうか……今は午前10時15分だ。グリーンルームの壁に掛かった時計の針が指している。だけど本当に10時15分なのだろうか……

あ、そうか。馬券的中のからくりはこれか。おそらく時計の針を15分から20分ほど早めているんだ。そして終わったレースのビデオを今始まったかのように見せる。こんな簡単なインチキさえ、薬と栄養失調とで気づかせずに不信感も抱かせないように細工をしていたんだ。……いや、今はそんなインチキの種明かしなどどうでもいい。この八方ふさがりの状況をどうするかだ。

そんなことをあれこれ考えていた時だ。

残された4天王の3人が7~8人の中級幹部を伴いグリーンルームにやってきた。どかどかと侵入してきた彼らは、俺たち三人の前に来た。

顔を見合わせた俺たちは、相当な覚悟を強いられる場面に出くわしたと思わずにいられなかった。特に、鉄三郎の額から流れ落ちる汗を観た時、俺には死を予感させた。

「お前たちを逮捕する」シンボリルドルフが細い眼をきらりと光らせて言った。

中級幹部達はいっせいに俺たちの体を取り囲み、縛り上げた。

「殺人容疑だ。凶器のナイフがトイレで発見された。岩元鉄三郎、お前の指紋が確認された。同時入信の二人も疑いがある。連行する」

「なんだとツ」

 ふざけるな! だがどうにもならない。俺のかたわらでは鉄三郎が震えていた。


 

   続く


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