第6章 競馬狂の詩 16
「俺は殺人者だ。行方をくらませ裏街道を歩き、人目を避けて生きるしかない。投資馬券が唯一の生活の糧だ。共犯者優香とのあらたなるサバイバルの日々を綴ってゆく」
(2) 欲望の渦の中で その11
『バッケンジャー大回廊』のステージの真ん中で、両手を空中にかざした若者は「きいええええ~」と叫び声を上げた。それから右足をドンと踏みならしてゆっくりと当たりを見渡した。ライトに照らし出された姿は威厳に満ちている。金色の法衣の様な着物姿だった。
場内の者はしんと静まりかえった。ミウラもすでに座り込んでいた。
すかさずドラムの小刻みなリズムが低く鳴り始めると、司会者は声を張り上げる。
「先週3月16日、中山第9レース鎌ケ谷特別 三連単10-1-3 36,480円的中ゥ~ 同日、阪神第8レース3連単15-12-16 55,460円的中ゥゥ~ 17日、中京第12レース 2-1-13 203,150円大的中ゥゥゥ!!」
モニターには的中馬券が大きく映し出された。馬券が切り替わるたびに大歓声が巻き起こる。いずれも6点各5000円の金額で仕留めている馬券だった。偽造かどうかは良く解らない精巧なものだ。
「続々と的中ラーッシュ!! まだまだほんの一部に過ぎなーい。偉大なる我らのメシア木原元気ィ~~競馬の神に愛されし者、総支配人木原元気ィィィ~」
大歓声とともに今度は大きな拍手が鳴り響いた。
木原元気はマイクスタンドの前に立った。
ゆっくりと首を右から左へと廻して口を開いた。
「偉大なる宇宙の神に宿りし力、それはホースの力。我らはホースとともにある。ここでいうホースとは、馬だけを差すのものではない。サラブレッドに宿るホースの力。宇宙の力なのだ。それを読み取れば、おのずと競馬の結果は手に取る様にわかるのだ。私の持つ力を少しでも皆様におすそわけ出来るよう、当道場のカリキュラムは組まれている。最後までしっかりと切磋琢磨し、実りある道場生活となることを期待する」
少しか細い声だったが、堂々たる振る舞いだった。
司会者の声が続いた。
「さあああ、本日のメインレース!! 買い目はこれだァ。中山第11レース日経賞 武豊騎乗メイショウテッコン①を1着軸固定。デムーロのエタリオウ⑦、横山典鞍上のサクラアンプルール④へ2頭流しの2点。さあどうだ」
大回廊の左の壁にはひと際大きな時計が掲げられている。ちょうど3時45分を差していた。
モニターには3連単2点の馬券が映し出された。1点5万円ずつの合計10万円の馬券だ。
次にレースの映像が大きく映し出された。ファンファーレとともに旗が降られ『ガシャン』とゲートが開いて各馬がいっせいに飛び出した。
レースは、武豊ががっちりと内ラチ沿いをキープし終始逃げ続けて1着入線、好位に取りついたエタリオウ2着、サクラアンプルール3着という結果になった。どよめきが起こった。
やがて確定ランプが灯ると、1-7-4の3連単は6,940円の配当だった。
どよめきが起こった。場内の者は次々と立ち上がりスタンディングオベーションを始めた。そして割れんばかりの拍手と口笛、歓声の渦に場内は巻きこまれた。興奮のるつぼと化していた。
俺もただ一人の観客となっていた。
続く




