第6章 競馬狂の詩 15
「俺は殺人者だ。行方をくらませ裏街道を歩き、人目を避けて生きるしかない。投資馬券が唯一の生活の糧だ。共犯者優香とのあらたなるサバイバルの日々を綴ってゆく」
(2) 欲望の渦の中で
その10
『バッケンジャー大回廊』の入り口では、またもやでかいやつらが待ち構えていて、携帯や腕時計、財布など身につけた物を全てを預けるよう指示された。有無も負わせない態度だ。身につけていたモノ全部を奪われて受付番号が書かれた手提げ金庫のようなモノに個別に保管された。
中に入ると前方に大きなステージがあり、大画面のモニターが一面に貼りつけてある。モニターには過去のレースシーンが流されていた。壁や天井はきらびやかで豪華絢爛な装飾が施されていた。
硬い板の床には500人ほどの人間がうごめいている。男女の比率は7対3ぐらいか。
ステージに一番近い側の修行者は、白い作務衣のような服をまとっていた。10列ほど下がった後ろには黄色の作務衣、その後ろは赤、緑と続いていた。一番後ろ側の人間は自前の服のままだ。つまりクラスごとに場所とユニホームが別れているようだ。俺たちは最後方に控えるよう指示された。
会場の周囲をぐるりと囲むにように道場を仕切る者たちが立っていた。彼らはみな黒い作務衣をまとっていた。
やがて競馬のアナウンスがフェイドアウトしてゆき、今度はテンポの良い音楽が流れ始め、やがてだんだんと音量を上げていった。
すると、ステージにはピンク色のチャイナドレスのような着物をまとった若い女性が30人ほど現れて踊り始めた。その踊りは中国とペルシャとカンボジアあたりの民族舞踊をまぜあわせたような不思議な踊りだった。観ていると三半規管が狂うような感覚がして、立っているのがおぼつかなくなる。やがて俺たちはその場に座り込んだ。
他の修行者たちもほとんどが座り込んでいた。ふと、左隅の方に目をやると背の高い男が立ったままで踊りを真似しながら身体をくねらせているのが目に止まった。緑の作務衣だ。2クラスの者か……どう見てもミウラだった。
「ミウラ? なぜこんなところに」
俺は隙間を縫うようにしてミウラの傍に近づいた。
「やあ、妙なところで会ったね」肩を叩くと、ミウラはにかっと笑って見せた。「おやこれは狂死狼サン。あんたもとうとう勝負に出る気だね」
「勝負とは?」
「ワイはここで、今度こそホンマもんの勝負師になったるで。もう負け犬にはならんで」
「本気なのか?」
「当たり前だ。そういうあんたは。仕事はどうしたん?」
「ああ、俺もそうだよ。ここで一発逆転を狙うもちろん言えない。
「そうだな。もう4日……あれ2日だったか。いや……確か1週間くらい。アレレレ?」
ミウラは目を泳がせながら頭をひねった。口元からよだれが流れ出ている。
やばいぞ。これはすでにおかしい……なんとしても助け出さなければ。
今回、俺たちが助け出すべく依頼を受けている捜索人は総勢10名にも及ぶ。名前と年齢、特徴などを頭に焼き付けてきた。果たして全員を助けだせるかどうか、かなり難しいミッションだ。それに加えてミウラよ、お前もまでもか……。
やがて踊りが終わり、ドラムが小刻みなリズムを奏で始めた。すると場内の照明が落とされ真っ暗になった。甲高い男の声が場内に響き渡った。スポットライトがぐるぐると廻り出す。
「レディースアンドジェントルメン! お待たせしましたァ 未来からの使者、アンゴルモアを統治せし者、アレクサンダー大王の再来、ツタンカーメンの生まれ変わり、当馬券道場アルメティオ・メッツ総支配人、木原元気ィ~~」
盛大なファンファーレとともに現れたのは聡明で色白な顔の若者だった。
ステージの真ん中で両手を空中にかざし、まるで神様のようなポーズを取った。
続く




