サッカーの方程式
「見えたッ」
男は机の上のメモに『v』と『h』を書いた。
v h
しかし、同時に日本の戦いは終わった。
終了間際、ベルギーの超高速カウンターを食らってしまったのだった。
「俺だったら優勝に導ける・・・」
と男は叫んだ。
ワールドカップ ベスト8をかけたベルギー戦、
ホイッスルの直後だった。
男は天才だった。
もちろん、サッカーではない。
天才科学者なのだ。
「そういうことだ」
そう言うと、彼はペンで『v』の字をコツコツした。
「だから、西野監督はポーランド戦でメンバーを変えたのか。
選手の疲労を取るために」
日本VSポーランド戦、
西野監督の作戦は日本中に物議を呼んだ。
主力メンバー6人の入れ替え、
そして、後半10分の戦い。
「v、つまり速度が重要なんだ」
『v』とは物理方程式に使われる速度の事だった。
「戦も同じだな。
信長の桶狭間の奇襲、
義経の鵯越。
機動力が勝敗を握るんだ」
今度は『h』をペンで差す。
「でも、高さ、hも必要だ。
セットプレーや守備で」
「でも・・・」
『v』に『^2』(二乗)を追記する。
「v、つまり速度の方がより重要なファクターだ」
v^2 h
「日本の戦い方を見れば明らかだ。
個々の能力が劣る日本人選手が、速度、運動量で補う。
そして、実際に補えた。
日本は世界に証明したんだ」
彼はペンを走らる。
そして、選手の能力の方程式を記述した。
P=av^2+ah
P:選手のポテンシャル
a:選手の能力(身体能力及び技術)
v:速度
h:高さ(身長)
彼はニヤリとした。
もう気づいた人はいるだろう。
物理学の運動、位置エネルギーの方程式に類似していることに。
E=1/2mv^2+mgh
ただこれでは、個人の能力の値であって、
試合の勝ち負けは表せない。
「フィールドプレーヤー、10人の力の差、
それが得点だな。
日本をPj、ベルギーをPb」
Pb=av^2+ah
Pb=av^2+ah
「シグマで・・・」
Σ(Pj-Pb)
「・・・で、時間で積分すれば良い」
∫Σ(Pj-Pb)dt
「そして、その答えが『0』以上なら日本の勝ち」
∫Σ(Pj-Pb)dt>0
「だから、スーパースターがいても負けたんだ。
速度、つまり選手の運動量がより試合に影響を与えるんだ。
前線、いや全選手のハードワークが、日本に良い結果をもたらした」
彼はそう言うと、
どうだ結論を導いたというキメ顔をした。
「でも、これは自分たちが相手より弱いという戦力分析が
チーム全体に浸透していたからだろう。
でも・・・やっぱり・・・」
「こういう献身さに
サッカーの神様は、ほほ笑んだのかな」
その後、彼は論文を完成させ、国立科学研究所に提出した。
彼はスポーツ関係団体に発表しても、
バカにされるだけだと知っていた。
しかし、二年が経ち、ワールドカップ・カタールの予選を勝ち抜いても発表されることはなかった。
2023年、日本サッカーに衝撃が走った。
日本サッカー協会は、外国人監督の招へいしないことを発表した。
ついに日本の悲願が。
実は彼の論文が極秘に研究されていたのだった。
そして、実証されていた。
U16、U19の世界大会で優勝したのだった。
監督の発表が告げられた。
彼の論文をもっともよく知るもの、
彼?
ではなかった。
AI、人工知能だった。
心配された意思疎通も良好だった。
小学生から勉強させられた英語より、
スマホでコミニケションの方が楽な世代になっていた。
そして、日本は2026年ワールドカップの優勝候補に名を連ねた。




