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彼は過去を省みる

放課後に入り、俺は教室を後にする。


今日は修三だけでなく、他の男子とも別れの挨拶をした。


バスケで同じチームだった奴らや、相手チームのバスケ部員達だ。


その様子を見た女子達が目を丸くしていたような気がするが、気にする必要もないか、と歩を進めた。


「あっ、歩君、ちょっと待って!」


静止の声に立ち止まって振り返ると、恵恋が鞄を持ってパタパタと走ってきた。


「えっと、もう帰るんだよね?途中まで一緒にどうかな?」


望むところだ。


「構わない。恵恋は電車通学か?」


「うん、僕は電車だよ。歩君は徒歩だよね?」


「あぁそうだ。なら正門までは一緒だな。」


という訳で恵恋と共に正門まで歩いて行く。


正門を出たところで恵恋は左、俺は右へと進むことになる。


「それじゃまた明日ね!」


恵恋がにこやかに手を振った。




「やぁやぁ歩くん!お久し振りですなぁ!」


恵恋と別れて十数分。


もう少しで家が見えるといったところで、上空から間抜けな声をかけられた。


「ユウコ、昨日会ったばかりだろう。」


あとその話し方はなんだ。


「まぁまぁそんな細かい事は気にしなーいのっ!それよりも、早速やってるみたいだね!」


ぐっと親指を立ててみせるユウコ。


「やってるって何をだ?」


「青春だよっ青春!いやー、まさかたった二日で四人も友達作っちゃうとは思ってなかったよ!」


「なんだ、見てたのか?」


「そりゃもうばっちり!ユウコちゃんはいつだって歩を見守ってるんだよ!」


ユウコは他の霊と違って、霊界に入らずとも姿を隠す事ができる。


そんな事ができるのはユウコしか見たことがない。


こいつは以外と凄い奴なんじゃないかと度々思う。


何を極めた霊なのかは、未だに教えてもらっていないが。


「………まぁ、こうして友達を作れたのも、ユウコのお陰かもしれないな。」


もしユウコに何も言われなければ、俺は誰とも話すことなく一人で弁当を食べ、一人で帰っていたことだろう。


バスケで恵恋とペアを組んでも、黙々と練習していたに違いない。


六花を助けた時も、きっとそそくさとその場を後にしたはずだ。


そう考えると、ちょっとした切っ掛けでこれほど態度を変える俺は単純な男なのかもしれないと思った。


「にゅふふ……そう言われると照れちゃうなぁ…………ま、アタシは歩が幸せになれるならそれで良いんだよ!」


ニコニコと笑いながらユウコはそう言った。


その笑顔を見て、ふと疑問に思った。


「……………そう言えば、どうして今更あんなこと言ったんだ?」


「あんなことって?」


「青春を謳歌するとか、友達だとか彼女だとか……」


少なくとも今までそんな事は言われたことがなかった。


急にそんな事を勧めるユウコに疑問を抱いたのだ。


「それは……んー………だって歩、中学生の時まではそんな事する余裕なかったでしょ?」


「あぁ……まぁ、そうだったかもな。」




俺は小さな頃から内気な性格で、体が弱く病弱だった為に小学校に入学しても学校を休みがちで、友達なんて全くできなかった。


そんなある日、突然霊能力に目覚めると共に、虚弱体質が改善されたのだ。


だが、だからといって性格までは変わらず、そして一度ついた印象はそう簡単には変わらないようで、友達は一向に作られなかった。


むしろ、幼く浅慮だった俺が幽霊が見えるだとか言ってしまったお陰で、余計に避けられる事となったのだ。


そんな中……小学四年生、俺が十歳の時、兄である天道翔(てんどうかける)が亡くなった。


享年十九歳、死因は不明だった。


ただ夜寝た兄が目覚めることはなかったのだ。


それからの二年間は思い出したくもない。


兄が亡くなってから小学校を卒業するまでの二年間、俺は家にも学校にも居場所がなくなってしまったのだ。


外向的で誰にでも優しく、文武両道で容姿端麗な、理想を形作ったような兄を何よりも大切にしていた両親は、それを失った事で何に対しても興味を抱かなくなったのだ。


兄とは反対に内向的で虚弱だった俺は、元から両親にあまり好かれていなかった。


俺を大切にしてくれたのは兄と家政婦の梅婆、そして付き添う桜さんだけだったのだ。


梅婆と桜さんは雇い主である両親の手前、あまり俺に構う訳にもいかなかった。


唯一どんな時でも味方でいてくれた兄を亡くした俺は、家庭内でも孤立した。


両親が俺が小学校を卒業するまで育ててくれたのは、生んでしまった子どもに対する最低限の責任だったのかもしれない。


そこに愛情を見出だすほど、俺と両親の絆は深くなかった。


いずれにせよ、両親は俺が小学校を卒業するとすぐに亡くなった。


自殺だった。


きっとあの二人は生きてはいなかったのだ。


兄が死んだその日から、ただただ最低限の責任を全うする為だけに生きていた。


心は既に死んでいたのだろう。


遺書には、遺産を全て息子に相続させる事と、自由に生きろとの有難い言葉が書かれているだけであった。


その後の生活は、梅婆と桜さんの助力なくしては成り立たないものであった。


あの頃は何から何まで本当に迷惑をかけていたと思う。


そのお陰で中学校に入学する事はできたが、それまでの経験で臆病になっていた俺は、無意識に独りでいる事を望むようになっていた。


また、中学時代は最も多くの霊と接した時期だった。


家のことや霊のことなどで精一杯であり、俺自身も中学校の思い出などほとんど覚えていない。


そういった経緯があった為、小学校でも中学校でも、俺は友達作りなどはできなかった。




「だったらどうして高校一年の時に言わなかったんだ?」


「言おうとしたら早々に問題起こしてあんな事になってたじゃん。」


「あぁ………別に俺が問題起こした訳じゃないけどな。あれは巻き込まれたんだ。」


「自分から巻き込まれに行った、の間違いでしょ?」


そうとも言う。


「一年経ってクラスも変わるし、周りもそろそろ忘れかける時期かなって。だからチャンスだと思ったんだ!」


「そうだったのか………まぁ、礼を言っておくよ。ありがとな。」


「にゅふふ……気にしない気にしない!!それよりも、早く帰らないと桜ちゃんが心配しちゃうよ!」


いたずらっぽく笑うユウコに急き立てられ、俺は家に向かって歩き出したのであった。

天道翔(てんどうかける)

歩の兄。唯一の絶対的な味方であった。

歩が十歳のとき、十九歳という若さでなくなった。

文武両道、眉目秀麗、霖雨蒼生を地で往くスーパーハイスペック人間。


歩の両親

歩と翔の実の親。

ハイスペックな翔ばかりを愛し、劣る歩に愛を向けなかった。

子どもは親の道具だと本気で考えるような人達。

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