《3の国》の会計士とお貴族様の短くも長いお話・なろう版
※会計官と会計士と言う表記がありますが、役所的名称が『官』で庶民的名称が『士』と思っていただければ。計算をする人となっています。
※短くも長いお話と銘打っていますが、文章的に短く、作中時間的に長いという意味です、ご了承ください。
近くて遠い4つの世界のお話
世界の始まりはスープ皿に満たされた粘度のある命の水
天から落ちた滴りが水面を押し出し、それは王冠へ、王冠から神へと変化し
波紋は大地となった
波紋から成った大地は、大きな大きな輪の形をしていて
それを四柱の王冠の女神達が、それぞれ守護している
これはそんな世界の《3の国》の話
忠誠と深秘の国、王を頂点とした国
王族・貴族・騎士・魔法使い・神官・庶民が生きる国
《3の国》といっても、さらにいくつかの国に分かれていて、そのなかでも3・4を争う国が私の生国。某下級貴族の庶子として生まれ、ほぼ庶民として育ってきた。このまま庶民として埋没していくのだなと思っていたのだが、貴族の父が何を思ったのか私を認知したのです
あぁ、びっくり
その頃にはすでに母は再婚、某商家の嫁となっていて私もその商家で会計士モドキをしていました。私の持って生まれた数字への才能に気が付いた義父一族が、ただで会計士を雇えたとほくそ笑んでいたのを知っている。それは遠い祖先の努力の結晶が、まれに子孫に発現する身体的祝福『数学者の血』。それが強く出ている私にとって計算は息をするように……いえ、見ただけで解が浮かぶ、式もカラクリも使う事なく
ご先祖様には悪いけれども、面倒な『血』を継いでしまったと思わないでもない。しかし立場が弱い小娘には、正当な給与を寄越せなど言えるはずもなく。まぁ、衣食住を最低限保障された商家で丁稚奉公していると思えば、よくある事……かも?
淡々と計算しながら生きていくだけ、そう思っていた
義父の商家としては隠しておきたかった私の『血』の力だったのだが、どうやら実父に知られてしまったらしい。貴族の地位と親権を振りかざし、私の身柄を引き取った。そして淑女教育の為、学校へと通う事となる。経済・経営・書記など学び、淡々と生きていた時よりは充実していた学生生活
卒業したら王宮へ上がらせようと、会計士の資格を取るようにと命じられ、歴代最高得点を叩きだし、一級会計官として王宮へ出仕することとなった
それは突然の求婚でした
王宮の会計官室に来たお貴族様は、誰?と言う感じの唐突さ。かの人はご立派な体格をご立派な衣装で包み、同じくご立派な執事を連れて私の前に立ちふさがり求婚して即結婚。爵位的にお断りできるような方ではなかった、とだけ言っておこう
望まれた割に義務の様に婚姻式を挙げ、義務の様に初夜をこなした。言葉は一切なく、淡々と腰を振られた……愛しているとか可愛いとか一言もない。まぁ、私はそんなに可愛い顔はしていないので、仕方ないのかもしれない。そして愛なんてないから、やっぱり仕方ないのだろうと思う事にした
言葉は悪いがヤリ捨てられた母を見ていたから、貴族の恋愛というか下半身事情なんてこんなものなのだろうな……
お貴族様も結局のところ、私の『数学者の血』が欲しかったのだろうな~と、彼の執務室で会計処理をしながら思った。お貴族様の仕事はその領地の広さに比例して膨大だったから。私はひたすらに計算をし、サインし、彼に書類を渡す。最初はきちんとダブルチェックしていたお貴族様だったが、そのうち確認もしないうちにサインし、印を押すようになった
これは信頼されているのか、手を抜きはじめたのか、非常に微妙。勿論、私の計算が間違っている訳ないので、確認していただかなくてもいいのですが(そもそも私自身が暗算と計算機で確認しているから)
それにしても……である
甘い結婚生活なんて夢見た訳ではないが、ただ単に衣食住を最低限保障されて働いていた義父の商家での扱いと同じではないか?会計士が欲しければ、会計士として引き抜けばいいじゃないか。たまに思い出したようにお貴族様は私を抱く、性的なご奉仕まで加わって私は完全に損していないか?
結婚してそろそろ3年、もしかしたらそれなりに情が湧いて多少夫婦っぽくなるかなと思っていたがもう限界。お貴族様が私に贈って下さったのは、婚礼衣装一式と会計書類だけ。あぁ、たま~に子種も贈って下さるというか、吐き出しているだけね
私、正当な報酬を全然得ていないじゃない!!どうしてここまで搾取されて生きていかないといけないの?一級会計官の資格まで取ったのに、二級じゃなく一級よ。優秀すぎて二級飛び越えたのに!!
という訳で、私は
「サインをお願いします」
出来上がった書類をお貴族様に差し出すと、いつものように確認せずにサインと印を施していく。承認の終わった書類は執事に渡し、それぞれの場所に保管されるのだ。私は本来執事に渡される書類をさりげなく奪い、お貴族様に声をかける
「せきをはずします、ついでに書類を届けておきます」
「わかった」
わかったって言ったよね、浮かれ気分を押さえて静々と執務室から退出する。廊下でもまだゆっくり歩いて、喜びを出してはいけない。目的以外の書類をそれぞれの場所にきちんと届けて、私は欲しくて仕方のなかったたった一枚の書類を大事に懐に仕舞う。私室へ向かい小さいトランクを持ち、そっとお屋敷から抜け出した
向かう先は王冠の女神神殿、戸籍を扱う場所。そうこの書類は、その場所に保管されるべきものだからちゃんと届けなければね!!後腐れないように結婚前に持っていた服、王宮で働いていた際に得たお給料だけ持ちだした。後で家の財産だから返せとか言われても困るから、結婚指輪もちゃんとおいてきた。3年間着けていて馴染んでいたから、危うく外すのを忘れる所だったのには肝を冷やした
「ちゃんと言ってきたもの、『籍を外す』って」
私の『血の力』があれば、他国でもやっていけるはず。どうせほぼ庶民、商家に勤めるのだってお手のものだわ。そして私は明るく開けた未来を夢見て、国境を越えたのでした
ただ残念な事に、お貴族様のところの物は全て置いてきたつもりだったのですが……。唯一、知らない間に持ってきてしまったものがあったのです……彼の子種を
まさかの妊娠、さすがに商家で働くのは諦め『愛と出産の神』様の神殿で働かせてもらえる事に。ここは望まれない出産を減らすため、性に関しての正しい知識を分け与える神殿。はっきり言って望んだ妊娠では無かった為、そんな罰当たりな私は門前払いかな~と当たって砕けろ精神で門をたたいた
神官たちはそんな私を温かく迎えてくれた、その優しさに思わず生まれて初めて号泣してしまいました……。その中でも出産専門の輝く銀の髪を持つ神官さんは、色々相談にのって下さる優しい方。私をいろいろ労わってくださった
「辛かったでしょう」
「辛くないと思っていたのですが……」
「辛くないと思いたかったのね、貴女が居たいだけ御子と共にここで暮らして下さい。わが神はなにものからも貴女を守って下さるはずです」
そう、あのお貴族様が私の引き渡しを要求しているらしい。どうやって此処を突き止めたのか知らないけれど、神の領域では彼の爵位も無意味、この神殿ではただの男なのだ。妻を返してほしいなんて言っているらしいけれども、もう離婚しているから妻じゃありませ~ん
……それにしてもお貴族様も会計士くらい、きちんと雇えばいいのに。いつまでも私にこだわっていたら、あの膨大な書類の山が雪崩を起こしてしまうだろうに、もう起こしているのかしらね
「あ、もしかして『数学者の血』を引くかもしれない子供が欲しいのでしょうかね」
お腹を一撫でしてそうつぶやくと、輝く銀の髪を持つ神官さんは困ったような顔をして静かに微笑んだ
「違うと思いますわ。……もし彼の方とお話し合いがしたいのならば、大神官様が立ち会って下さるそうですから気が変わったら言ってくださいませ」
「3年間の結婚生活を思い返せば、全然、全く話し合える気がしません。でもこの国にご迷惑をかけることになりませんか?最悪、戦争とか……それは困る……」
「それはありません。いくらかの方が王家の血を引く爵位高い貴族とはいえ、そんな愚かな事を王族が許しはしません。わが国の王陛下も少々俺様で強引で意地悪ですが、政治と私事はきっちりと分けるお方です」
と、きりっとした顔で神官さんは言う。それならば安心と、私は任されたお仕事を再開した。相変わらず私は計算ばかりだが、きちんとした報酬を得ている。神官さんたちは優しいし、神殿には多くの妊婦さんが訪れるから、《4の国》で言うところの『ママ友』と言うやつも多くできた。人生初のお友達だった
生国に居た時よりも、ずっとずっと充実した生活を送っている私。あの時思い切って勇気を出したのは間違いではなかったと、そう思う
ただ、あのお貴族様は私が死ぬまで、そして死んでからも引き渡しを要求し続けたそうだ。本当にしつこい人だな。わが娘はさすがに根負けして、孫の一人を養子に出したらしい。そんなお貴族様は私の墓近くにご立派な墓を建て、私の側で眠っている
本当にしつこい人。
完全にすれ違っている人たち、会計官バージョン(と言っても、お貴族様バージョンは無い)。
会計官さんは美人タイプで、お貴族様は元武官で寡黙な人。寡黙すぎて何がしたかったのかイミフ(笑)。娘にはなんとなくわかったようで、仕方なく面影が一番母に似ていた子を養子に出す。孫だけれども立場的に義息子になって爵位を継がせた。このころにはすでに会計官さんはお亡くなりになっている、若くして逝ってしまった模様。
リベンジは来世でお願いします(苦笑)。読んでくださって、ありがとうございました。