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(30)罰ゲームでもなければ、復讐でもない:3

 モヤモヤが解消したような深まったような、なんともいえない昼休みが終わった。

 そして、放課後。

 帰り支度を初めて三分も経たないうちに、鮫尾先輩からメッセージが送られてきた。


『向かってる』


 相変らず、事後報告に近いメッセージだ。

 なにもないまま迎えに来られるほうが心臓に悪いので、こんなメッセージが送られてくるだけでも、よしとしよう。


――っていうか、そもそも、先輩が私に関わってくるほうがおかしいんだけど。


 これに関しては何度も先輩に訴えてきたものの、今日に至るまで、その説得は成功していない。

 昨日は私の家で勉強を見てもらう事態にまで発展してしまった。


――やっぱり、さっさと先輩の魂胆を見抜いて、先輩に離れていってもらうしかないんだよね。


 ため息を零しつつ筆記用具をバッグに詰めていたら、茜ちゃんと琴乃ちゃんが私のところにやってきた。

「真知子、浮かない顔してどうしたの?」

「なにか悪い連絡でも入った?」

 心配する二人に、私はユルユルと首を横に振った。

 ちなみに、先輩からのメッセージが送られてくるのとほぼ同じタイミングで、馬鹿アニキからも動画付きメッセージが送られてきた。

 タイトルは『真実はいつも一つ! 大量の抹茶クリーム入りシュークリームの中から、ワサビ入りシュークリームを見抜け!』となっている。

 前回同様に兄が動画内容を説明していて、また、兄の友人たちも前回と同じように、すべてのシュークリームにワサビを詰めていた。

 この動画で判明するのは、「兄が正真正銘の馬鹿だ」ということだろう。

 当然のことながら、私は見る前に削除した。


 それはさておき、今は私のことだ。

 先輩がもうすぐ来てしまうので、あまり時間がない。


「特別、悪いってことじゃないんだけどさ。まぁ、いいことでもないっていうのが、本音かな」

 苦笑いを浮かべる私に、茜ちゃんがコソッと私の耳元で囁く。

「鮫尾先輩のこと?」

 私はちょっとだけ迷った後、コクンと頷いた。

 そんな私の耳元に、琴乃ちゃんも口を寄せてくる。

「さっき、聞きそびれちゃったんだけど。どういう経緯で、鮫尾先輩が真知子ちゃんを迎えに来るようになったの?」

 お昼休みに二人は私を取り巻いている噂は気にするほどではないと言っていたけれど、たぶん、それは私を心配してのことだったのだろう。

 実際には、私が思っていることに近い展開になっているに違いない。

 だけど、私としてもどうしたらいいのか分からなくて、今日の今日まで、二人にはなにも言えなかった。

「あのね……、少し前に、裏庭で先輩と顔を合わせて。それから、色々と話しかけられるようになって。でも、先輩がどうしてそんなことをしてきたのか、よく分からないんだ。嫌がらせをするような人じゃないと思うんだけど、それ以外で、私に近付く理由がないし……」

 ボソボソと打ち明けたら、二人は深々とため息を零した。

「まだ、決定打がないってところかな。先輩自身が真知子との関係を口にしているって噂は、聞いたことがないしね」

「先輩の目を見たら、私たちの予想通りって感じだけど。先輩が誰かに自分から近付くことは、これまでになかったって話だし」

「とりあえず、あれだけ構われていることを嫌がらせだと勘違いしている真知子をどうにかしないと」

「確かにね。人間嫌いとまで言われている先輩が話しかけてくること自体、ものすごく貴重なことだもの。それが分かってないっていうのは、ちょっとね」

「中途半端な関係だったら、私たちも真知子を守ってあげられないよ」

「それは、先輩に促したほうがいいのかも。でも、真知子ちゃんがどうしたいのかはっきりしないと、余計なおせっかいにならない?」

「んー、それもそうかぁ」

 アゴ先に手を当てて唸っている茜ちゃんに、私が声をかける。

「ねぇ、二人でなにを話し合っているの? 時々、私や鮫尾先輩の名前が出てくるけど」

 茜ちゃんと琴乃ちゃんが困った顔で会話をしているのを見て、食いしん坊の私でも、さすがにスイーツの話をしているとは思わない。

 なにより、ちょいちょい、二人は私と先輩の名前を口にしているのだ。

「……やっぱり、マズいことになってる?」

 恐る恐る問いかけると、琴乃ちゃんがジッと私の目を覗き込む。

 そして、聞き取れるかどうかという小さな声で、ソッと尋ねてきた。

「真知子ちゃんと鮫尾先輩、付き合っているの?」

 それを聞いた瞬間、私は首が取れるくらいにブンブンと横に首を振った。

「な、なに言ってるアルか! 私、付き合ってないアル! 誰とも付き合ってないアルよ!」

 動揺するあまり、胡散臭い中国人みたいな話し方になってしまった。

 しかも、かなりの大声だ。

 帰り支度をしていたクラスメイトが手を止め、一斉に私を見る。

 火が出そうなほどに熱い顔を伏せていると、大股で近付いてくる足音が聞こえた。

「木野、お前が誰とも付き合っていないっていうのは本当か!?」

 なぜか、赤石君が私たちの間に割り込んできた。

 

――大きな声で言わないでよ! 注目されて、恥ずかしいんだけど!


 泣きそうになりながらも、私は彼が安堵の表情を浮かべていることに気付く。


――ああ、そうか。赤石君は鮫尾先輩のことが好きだから、先輩がフリーのほうが嬉しいよね。


 鮫尾先輩が同性を好きになるかどうかは未知数だけど、もしかしたら、もしかするかもしれない。

 赤石君はどこか子供っぽくって、いたずらっ子みたいな雰囲気があるものの、顔立ちは悪くないと思う。

 大人っぽい先輩と並んだら、それはそれでお似合いではないだろうか。


――赤石君が鮫尾先輩に猛アタックを仕掛けてくれたら、先輩は私にちょっかいを出す暇がなくなるかも。


 男子二人の関係がうまくいったら、赤石君も私も幸せになれるではないか。

 素晴らしい、なんと素晴らしいことだ。

 すっかり気を取り直した私は、赤石君の右肩を左手でポンと叩いた。

「最後まで諦めないで! 頑張ったら、想いは通じるかもしれないよ! 今、時代が赤石君の味方だから!」

 世の中、同性愛に対して、かなり寛容になっている。

 赤石君と鮫尾先輩のことを応援し、受け入れてくれる仲間が、きっといるはずだ。

 私は、全力で応援する。……けして、赤石君をスケープゴートにするわけではない。

 右手でサムズアップする私を、赤石君がポカンと口を開けて見ている。

「……は?」

 そんな私たちを茜ちゃんと琴乃ちゃんが、なんとも言えない表情で見守っている。

「真知子が赤石君を応援する意味が、私にはさっぱり分からないんだけど」

「そうだね。それに、真知子ちゃんは、赤石君の気持ちにまったく気付いていないみたいだし」

 私は赤石君を応援することに必死になっていたので、友達二人が深々とため息を零していたことには気付かなかった。





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