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(29)罰ゲームでもなければ、復讐でもない:2

 モヤモヤとした気分を抱えたまま午前中の授業を終え、ようやくお昼休みとなった。

 私はお弁当が入っている袋を掴み、窓際の席に座る茜ちゃんへと歩み寄る。

 同じように、お弁当を持った琴乃ちゃんもやってきた。

 お昼の時間は空いている好きな席で食べていいことになっていて、クラスメイトは仲の

いい人たちと固まってさっそくお昼ご飯を食べている。

 私は空いている椅子に座り、お弁当を広げた。

 二人に聞きたいことはあるけれど、空腹を満たすことが最優先だ。

「いただきます!」

 私は元気な掛け声とともに、箸を手に取った。

 色気よりも食い気である私のお弁当は、唐揚げやハンバーグといった茶色いおかずが大半を占めている。

 申し訳程度に、ミニトマトとブロッコリーが端のほうにちょこんと入っているけれど、女子高生らしい可愛らしさとか、ダイエットに気を付けているとか、そういったことはいっさい感じられない。

 お弁当は母が作ってくれているのだが、こういったお肉メインのお弁当には一切の不満はなかった。

 むしろ母のほうが「もう少し、彩りよくおかずを詰めてあげようか?」と言ってくるくらいである。

 しかし、成長期真っただ中――だと、私は信じて疑わない――なので、見栄えよりも食べ応えが大事なのだ。

「生姜醤油が浸み込んだ唐揚げ、最高!」

 次いで、白いご飯も口に入れる。

「んー! んー!」

 もう、言葉はいらないほど抜群に美味しかった。

 そんな私の様子を見て、茜ちゃんと琴乃ちゃんが眉根を寄せる。

「朝の深刻そうな態度は、なんだったの?」

「本当に、お腹が空いていただけ?」

 二人が首を傾げるのをよそに、私はパクパクとお弁当を食べ進めたのだった。


 三人ともお弁当を食べ終えたところで、私は二人に話を切り出した。

「あのさ、私についての噂があるみたいなことを、朝、言ってたでしょ? それって、どんな噂なのかな?」

 お腹が満たされたことで気持ちは少し落ち着いたけれど、胸の奥にあるモヤモヤがすっかり消えてしまったわけではない。

 私が予想する通りの噂が校内に広まっているなら、早いうちになんとなしなくてはならないだろう。

 高校生活が始まってから、まだ二ヶ月弱。卒業までの長い期間を心穏やかに過ごせないとなったら、さすがの私も食欲が減退する。…………たぶん。

 ニコニコとお弁当を食べていた時とは打って変わり、私は真剣な視線を二人に送る。

 すると二人は少しだけお互いの顔を見合わせてから、静かに口を開いた。

「真知子と鮫尾先輩のことが、他のクラスにも広まっているみたいだね」

「放課後に先輩がこのクラスまで来ているのは何人も見ているから、そういう話が伝わっているのも仕方がないと思う」

 茜ちゃんと琴乃ちゃんの言葉に、私の心臓がギュッと縮まる。

 

――そうだよね。そうなるよね……。


 鮫尾先輩のことは誰もが注目していて、その彼が一年の教室まで足を運んでいるとなったら、気になってしまうのも無理はない。

 しかしながら、これは不可抗力だ。

 私は先輩との関係を深めたいどころか、無関係でいたい。

 散々迎えに来なくていいと言っているのに、先輩がそれを無視して来てしまうのだ。

 だから、私はなにも悪くない。

 しかしながら、噂というのは往々にして無責任に広まっていく。

 私がどんなに自分と先輩は関係ないと主張したところで、先輩は実際にこの教室まで何度も足を運んでいるのだから、まったく信憑性がない。

 そして、私が『鮫尾先輩と兄が知り合いで、それもあって先輩が私にたまたま声をかけてきただけだ』と嘘も方便的言い逃れを口にしても、信じてくれる人がどれだけいるのやら。


 つまり、私は鮫尾先輩に想いを寄せている美少女&美人さんたちから、ロックオンされたも同然なのだ。


 この先、どんな報復が待っているのだろうかと落ち込んでいたら、茜ちゃんと琴乃ちゃんが私の肩をポンと叩く。

「そんなに心配しなくても大丈夫じゃない?」

「そうそう。みんな、ただ面白がっているだけみたいよ」

 確かに、この辺りでは知らない人がいないくらいのイケメンな鮫尾先輩と、キノコがうっかり人化したような私とでは、甘酸っぱい噂には発展しないのだろう。

 だとしても、ちんちくりんキノコの私が先輩と噂になっただけで、吊るし上げの対象となる可能性があるのだ。

 むしろ、先輩の相手がちんちくりんキノコだからこそ、美少女&美人さんたちは腹を立てるはず。

 彼女たちは「キノコのくせに、調子に乗るんじゃないわよ!」と思っているに違いない。

 私から先輩に声をかけたのではなく、実際にはその反対だったとしても、鮫尾先輩に関わったというだけで標的になるということが、昨日と今日、理不尽な視線を向けられたことで嫌というほど理解した。


――噂が収まるまで、絶対に先輩と関わらないようにしなくちゃ。それとも、さっさと罰ゲームだったことを受け入れて、先輩が私から離れていくようにしたほうがいい?


 先輩は本来ならキノコな私に関わっている暇もないだろうから、罰ゲームなり復讐が終わったら、私から離れていくだろう。

 そうしたら、私と先輩の噂も消えて、美少女&美人さんたちから吊るし上げられずに済むかもしれない。

 なにを言っても先輩は迎えに来てしまうから、方法はそれしかない気がする。


――そうなったら先輩に勉強を教えてもらえなくなるけど、約二年半の高校生活が平和に過ごせるほうが大事だよね。


 あれこれと考えていたら、茜ちゃんが声をかけてくる。

「っていうか、真知子は先輩のことをどう思っているのよ?」

「……え?」

 考え事をしていたせいで、私の反応が遅れてしまった。

 キョトンとする私に、琴乃ちゃんが改めて問いかけてくる。

「真知子ちゃんは、鮫尾先輩のことをどう思っているのか訊いたの」

「……先輩の、こと?」

 それでも言われたことが理解できなくて、私はパチクリと瞬きを繰り返した。

 どう思っているかと訊かれたら、迷惑だというのが正直なところだ。

 とはいえ、嫌いなのかと訊かれたら、どう答えたらいいのか迷ってしまう。

 視線をウロウロさせて考えている私には聞こえないように、茜ちゃんと琴乃ちゃんが囁き合う。

「これって、もしかしたら、もしかするってこと?」

「真知子ちゃんのことだから、自覚してないのかも」

「そうだよね。なんとも思ってないとか、苦手とか、そういうことをすぐに言ってこないところをみると、アリなんじゃない?」

「でも、他人に興味がないって評判の鮫尾先輩がわざわざ迎えに来ているのに、そういうことも気付いてないんだから、真知子ちゃんが自覚するのは難しいと思う」

「このままだと色々厄介なことになりそうだから、早いうちになんとかしてあげたほうがいいのかもしれないけど。本人がこの調子じゃねぇ」

 ヒソヒソと囁き合う二人に気付き、私はプウッと頬を膨らませた。

「ちょっと、私だけ仲間外れにしないでよ。どうせ、美味しいスイーツを出すお店のことでも話していたんでしょ」

 むくれる私を見て、なぜか二人がため息を吐く。

「真知子は、相変らず色気より食い気だよね」

「そういうのも可愛いけど、もうちょっと女子力を高めたほうがいいと思うなぁ」

「なんか、鮫尾先輩がかわいそうに思えてきた」

「私も」

「だーかーらー、仲間外れはズルいって! それで、クレープ? アイス? プリン? なんのスイーツなの?」

 こうして、友達二人と私の話が食い違ったまま、昼休みは終わった。  


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